第5章 glass heart【赤葦京治】
家に帰り、二人で夕食。
これもいつもと変わらない。
食べ終わった食器をシンクへ運ぶ遥の隣に立ち、スポンジと洗剤に手を伸ばす。
「俺やっとくから。風呂入っといで」
「いいの?」
「いいよ」
「ありがとう」
キッチンから出ていく遥を横目に、皿を手に取った。
二人分の食器を洗い、布巾を手にリビングへ。
さっきまで食事をしていた木製のローテーブルを拭いていると、足元でスマホの着信音が鳴る。
遥がLINEの着信に使っている音だ。
「こんなとこに…。踏むぞ?」
ラグの上に転がるスマホを手に取りテーブルへ置こうとした、その時。
ポップアップ表示になった文字が、ふと目に入ってしまった。
[遥、また会ってくれる?]
思わず凝視したディスプレイ。
送信元の名前は、どう見ても男のもの。
「……」
ひと言だけの文面。
ただの友達なら、こんなトーンのメッセージを送ったりはしないだろう。
そして "また" ということは、少なくとも一度は会っているということ。それも、恐らく二人で。
テーブルへ置きかけたスマホを、ラグへ戻した。
嫌な感情が胸を掻き立てる。
ここ最近、遥は俺に対して遠慮がちだった。
不満を漏らさなくなった。
あんなに行きたがっていた旅行だけど、それも断られた。
その意味も答えも、このメッセージにある気がした。
俺と距離をとろうとしてる。
遥の気持ちが、離れていってる…?
遥の心が、別の男へ…?
早合点かもしれない。
ただ遥が言い寄られているだけなのかもしれない。
でもその可能性は限りなく薄いと、妙な直感が働いた。
遥が戻ってきた。
何も見ていないフリで、キッチンに立つ。
ラグから拾い上げたスマホをチェックしたあと、俺に向けられる遥の視線。
そんな彼女の視線にも、俺は気づかないフリをした。