第5章 glass heart【赤葦京治】
何て言えば、遥は安心できる?
短い空白の合間、必死に頭を巡らせる。
けれど俺の返事を待たずに続ける遥。
「もう行かないで。その子がいるなら、木兎さんたちに会うのやめて」
「ちょっと…遥、待って」
「だって…!京治がその子のこと好きになっちゃうかもしれない!」
「……」
は…?
何言ってんだよ…。
思いがけない言葉が、俺の胸を刺した。
そんな簡単に遥から気持ちが離れるとでも思ってるのか?
「俺が好きなのは、遥だよ」
「…先のことなんてわかんないもん。私の体はこんなだし、傷なんてない綺麗な体の子に惹かれるかもしれないじゃない!」
「そんな風に言うなよ!」
「…っ!」
「自分のこと、そんな風に言うな」
諭すように低くそう言えば、遥の瞳に涙が浮かぶ。
「そう思わせてるのは…、京治だよ…?」
理解できない言葉をひと言残し、遥は家を出て行った。
遥は繊細だ。
中学三年生の時のあの事件があったことで、そうなってしまったのかもしれない。
他の女性に対する劣等感に囚われてる。
複数人の男に囲まれるのも、あの日が思い起こされて怖いと言う。
遥には、俺が全てだ。
そう思っていた。
でもそんな思い上がりが、少しずつ少しずつ、俺たちの歯車を噛み合わなくさせていく。
それからは、また仕事漬けの毎日に変わる。
遥が気になどしなくても、木兎さんたちと会える機会はなかなか訪れなかった。
お互いに頭を冷やした俺たち。
次に会った時には、努めて普段どおりにした。
秋が色濃くなり、二人で過ごす時間などほとんど作れぬまま慌ただしく日々は過ぎる。
そんな中俺は、遥との約束を果たせないことに気づく。