第5章 glass heart【赤葦京治】
それから一週間。
俺は秋本さんの荷物を持って家まで送り、それから部活に参加するためにまた学校へ戻る、という日々を繰り返した。
騒動を起こした佐野たちは、あれから学校には来ていない。
クラスの皆もあの日の惨状を目の当たりにしているから、俺と秋本さんをからかうなんてことはしなかった。
秋本さんだけでなく俺の心配までしてくれる声も多くて、クラスメイトには本当に恵まれたと思う。
学校帰りに話すのは、お互いの家族のことや俺の部活のこと。
それから、高校はどこを受験するのかということ。
控えめで大人しそうな印象の秋本さんだったけど、意外と話しやすい子で少し見る目が変わった。
好きな音楽や本の系統が似てたりもして話が弾み、秋本さんを送る時間は密かな楽しみにもなっていた。
秋本さんもたぶん、そう感じてくれていたんだと思う。
会話の勢いで俺が "秋本" って呼ぶようになったら、彼女も "京治くん" と呼び方を変えた。
約束していた一週間はすぐに訪れた。
傷が治っていくのは喜ばしいことなのに、この時間がなくなってしまうのは少し寂しい。
…なんて自分勝手な感情だ。
今日で秋本を送るのも最後。
すっかり見慣れてしまった景色の中を並んで歩いていると、ふと秋本の足が止まる。
彼女の家は、目と鼻の先。
『どうした?』
『うん…』
うつ向き加減の顔を、下から覗く。
チラッと俺を見上げた頬が赤くなった。
『なんか…ね、』
『うん』
『寂しく…なっちゃって…。京治くんと一緒に帰るの、楽しかったから…』
『……』
可愛いな、って思った。
傷を負わせた罪悪感からだとか、そういうことじゃなくて。
もっと一緒にいたいと思っていたのは、同じだったから。
『俺も』
『え?』
『俺も同じこと思ってたよ。夏休み、会える?』
『…夏休み?』
『うん。もう部活も引退だから、一緒に勉強しよ。たまにはどっか遊びに行くのもいいし』
『……うん…!』
嬉しそうに笑う顔がまた可愛くて。
好きだと自覚するのに、時間はかからなかった。
この数週間後。
中学三年生の夏休み。
遥は、俺にとって初めての恋人になった。