第5章 glass heart【赤葦京治】
『赤葦くんこそ大丈夫?』
『え?』
『ほっぺ。殴られたでしょ?』
心配そうに俺の顔を覗き込むと、『青くなってるね…』と小さく呟いて眉尻を下げる。
ああ…、すごく優しい子なんだ…。
自分の中の罪悪感が、またひとつ大きくなった。
『俺は…全然平気だよ』
こんなの、痛いなんて思わない。
秋本さんの負った傷に比べたら…。
『ありがとう、赤葦くん。心配して来てくれて。明日は学校行こうと思ってる』
『…本当に?』
『うん』
『…あ、そうだ』
鞄から取り出したのは、秋本さんが学校に来た時のために持ち歩いていたもの。
『これ。今日までの授業のノート』
『え?そんなことしてくれてたの?』
『うん。あ、でもあんまり綺麗なノートじゃないかも』
『そんなことないよ。ありがとう』
秋本さんはノートを受け取って、それをパラパラ捲る。
『それから、ずっと考えてたことがあって…』
『なあに?』
『朝はちょっと難しいんだけどさ。学校の帰り、家まで送るよ』
俺を見る秋本さんの目は丸くなり、次に手と首をブンブン大きく振った。
『い、いいよ、そんなの!足怪我した訳じゃないんだし!』
『でも、荷物あるだろ?』
『そうだけど…。赤葦くん部活あるじゃない…』
『秋本さん送ったら、また学校に戻ればいいだけだよ。部の連中もわかってくれてる。俺に出来ることは、それくらいしかないから…』
俺は医者じゃないから、傷を治すことなんて出来ない。
秋本さんの痛みを代わってあげることも。
だったら…って考えた時、自分に出来ることはこのくらいしか思い付かなかった。
『ごめん…俺の気が済まないだけなんだ。だから秋本さんが迷惑なら、無理にとは言わない』
しばらく黙っていた秋本さんから、遠慮がちな小さな声が届く。
『迷惑だなんて思わないよ。そこまで考えてくれて…嬉しい。うん…じゃあ、傷が塞がるまで。一週間くらいで抜糸できるって言われてるから…。
それまで、お願いしてもいい?』
『うん、もちろん』