第5章 glass heart【赤葦京治】
昨日から嫌な感じはあった。
夜中、寝返りをうちながらうっすら目覚めた記憶もある。
その嫌な感じは、朝起きた時には確実なものへと変わっていた。
「痛ってぇ…」
腰がどうにも痛いのだ。
目が覚めて起き上がろうとするが、なかなかスムーズにはいかない。
何とかベッドの端に腰掛けたものの、長くこの体勢でいるのは厳しい。
大きく息を吐き、倒れ込むようにベッドへ体を投げた。
理由は明らか。
昨日汐里と良太くんを受け止めた時、地面に強く腰を打ち付けた。
間違いなく、あれが原因…。
今日は遥と車で遠出する予定だった。
でもこの調子では、運転なんて出来そうにない。
長く座れないんじゃ、電車を使おうが同じことだ。
遥はもう起きてる時間か…?
枕元のスマホを手に取り、申し訳ない気持ちになりながらも彼女へ発信した。
「大丈夫?」
「うん…ほんとごめん」
「仕方ないよ」
事情を話すと、家に来てくれた遥。
もう出掛ける用意をしていたようで、メイクも服装も綺麗に仕上がっている。
きっと遥もこの日帰り旅行を楽しみにしていたはずだ。
予期せぬアクシデントとは言え、まさかの当日予定をキャンセルとは…。
「ねぇ、腰も心配だけど…その手…」
遥の視線は、大きな絆創膏を貼った左腕に向けられた。
昨夜帰宅してからシャワーを浴び、自分でもう一度手当てした傷。
昔からバレーをしていた習慣もあり、自宅の救急箱には、消毒薬や大判の絆創膏が常備してあった。
白い絆創膏を気にする遥に、「ああ…」と小さく返す。
「片手じゃ手当て大変でしょ?やってあげる」
「うん、頼むよ」
ペリペリと、皮膚から粘着面が剥がれていく。
剥き出しになった傷口を見て、遥の眉間が歪んだ。
「痛そう…」
「まあ…」
「痕になったりしないかな…これ…」
消毒薬が傷口に落とされ、昨日と同じく電流が走るかのような刺激が腕を駆け抜ける。