第5章 glass heart【赤葦京治】
「あ、ごめんなさい。私だ」
音を鳴らしているのは、リビングに置きっぱなしのスマホ。
汐里が席を立ち、それを取りに行く。
「なぁに?もう、食事中に…」
「ごめんって!…あれ?店長からだ。…すみません」
俺にも軽く頭を下げて、汐里はダイニングを出て行った。
お母さんと二人になった食卓。
「…赤葦さん」
一瞬間を置いたあと、改まって名前を呼ばれる。
「はい?」
「汐里、あんな体で心配かもしれないけど。定期的に病院で検査もしてるから。安心してね」
「………検査…って?」
真剣な顔をしたお母さんに、少し戸惑いつつ返す。
「え…、聞いてない?汐里から」
「あ…さっき汐里さんが言おうとしてたんですけど。俺たちは本当にただの友達なんです。会うのはいつも仲間内の集まりで…」
「そう、なの…。汐里が男の人連れて来たの初めてだったから。てっきりそういうことなのかと…。ごめんなさいね、汐里が話していないならいいの。忘れて?」
意味深な言葉だけを残して、お母さんは押し黙った。
程なくして、沈黙を破るようにダイニングの扉が開く。
「お母さん!赤葦さんは彼氏とかじゃないよ?本当にただのお友達。ちゃんと彼女さんいるんだから、失礼なこと言わないでね!?」
さっき否定しようとしたそのままの勢いで、汐里が戻ってきた。
「そうみたいね。早とちりして、ごめんなさいね」
「いえ…」
俺たちのことを誤解していたお母さんは、申し訳なさそうにまた頭を下げた。
汐里…どこか悪いんだろうか…。
正直、汐里には健康的なイメージしかない。
いつも元気で明るいし、好き嫌いなくよく食べるし。
お母さんの言葉が頭の片隅に残り気にはなるものの、ここで詮索するのは不躾というものだ。
汐里が戻ってきたことで、緊張感漂う空気は払拭される。
先程までと同じように、食事の場は和やかに過ぎて行った。