第5章 glass heart【赤葦京治】
「あれ?ない…。お母さん、包帯ないんだけど」
「え、ほんと?この前海斗が怪我した時に使いきっちゃったのかしら」
キッチンに立っていたお母さんが近づいてきて、救急箱の中を覗く。
「あー、やっぱりないわね。ハンカチ巻いといたら?」
「そうだね」
「ごめんなさいね、赤葦さん」
「いいえ。でも、ハンカチ汚れると悪いから…」
今度はバッグを開いて、汐里は真新しいハンカチを取り出した。
「別に返さなくていいですよ。って言ってもこんな柄のハンカチ要らないと思うんで、処分しちゃってください」
ピンク色の花柄のハンカチ。
確かに、俺が使っていたら不気味だ…。
「じゃあ、今度新しいもの買って返すよ」
「え?いいですよ、そんな!私ハンカチ沢山あるんで」
大判のハンカチでクルクル患部を巻きながら、今度は唸っている。
「あれ?これって最後どうやって結ぶの?」
「汐里の巻き方が悪いんでしょ?端と端が重なるように持ってこなきゃダメよ」
「重なるように…?どういうこと?半分に折るの?」
「それじゃあ長さが足りなくなるでしょ。もう、貸しなさい!」
痺れを切らしたお母さんにバトンタッチする。
手早くガーゼが覆われて、最後にキュッとしっかりした結び目が出来た。
「ありがとうございます」
「いいえ。この子昔から不器用でねぇ」
「そんなこと、赤葦さんの前で言わなくていいじゃん…」
「あ、赤葦さん。よかったらお夕飯食べて行って?」
「いえ…、そんなご迷惑ですので」
「お母さん、赤葦さんだって暇じゃないんだから…」
「でも、さっきどこにも行く予定ないって言ってたじゃない?息子からね、今夜はごはんいらないって連絡あったのよ。三人分作っちゃったから、食べてくれると嬉しいわ」
結構グイグイ来るお母さんだ…。
でもさすがにそれは図々しいし、俺も気まずい。
「普通の和食だし、お口に合うかどうかわからないけど」
お母さんはキッチンへ戻り、味噌汁を温めたり食器を準備したりしている。
これはもう、俺が夕飯を食べる方向に話が進んでる…のか…?