第5章 glass heart【赤葦京治】
用意してくれたガーゼで傷を覆いながら先程の場所へ戻り、リビングのドアをノックする。
返事と共に扉が開かれ、汐里が顔を出した。
「どうぞ、入ってください」
足を踏み入れた室内は、天井の高い広々としたリビング。
オーク材と思われるサイドボードやローテーブルに、暖色の照明。部屋の角に置かれた観葉植物も相まって、温かみのある空間だ。
あまりキョロキョロするのも失礼だから、視線を汐里に固定する。
「ここ、どうぞ」
俺はドアのすぐ脇にある、L字型の革ソファーへ座るよう促された。
消毒薬とガーゼを手にした汐里が足元に屈む。
「消毒しますよ?」
「…よろしく」
絶対に滲みるよな…と覚悟して、密かに息を吐く。
冷たい液体がそこに垂らされた瞬間…
「~~~っ…!!!」
激痛が走る。
予想を上回った…
めっっちゃくちゃ滲みる…!
「大丈夫ですか?」
「……うん」
「めちゃくちゃ痛いって顔してますけど…」
時に能面と表される俺の顔は、どうやら能面のままではいられなかったらしい。
汐里は少し苦笑いしつつ、俺を見上げている。
「…大丈夫」
「こんな酷い傷なんですから、痛くて当たり前ですよ。無理しないでください」
大きめの絆創膏を取り出しながら、消毒薬が乾くのを待っている汐里。
その瞳がまた俺を見上げ、緩やかに笑った。
汐里は不思議な子だと思う。
月島とケンカしている時は子どもっぽくて。
黒尾さんとふざけている時には元気で明るくて。
木兎さんといる時は、弟の世話を焼く姉のようで。
そして今。
俺の怪我の心配をしてくれている汐里は…
何だか…女らしい。
「ん?あれ?絆創膏ちょっと小さいですね…」
薬局で売っている、個装された絆創膏。
汐里があてがってみると、傷がはみ出してしまう。
「ガーゼ当てて、包帯巻いときますか」
「何か大怪我したみたいになるな…」
「どこかに寄る予定あります?」
「いや、ないよ」
「じゃあ、取り合えず家まで我慢してください」
そう言って汐里は、また救急箱の中を漁る。