第5章 glass heart【赤葦京治】
汐里の真剣な表情で、俺のことを心配してくれているんだって伝わってくる。
「…じゃあ、お願いシマス…」
その気迫に押されるように、頷いた。
カーポートに車を停めさせてもらって、いざ玄関の中へ。
そう言えば、実家にお邪魔するのに今の俺は手ぶらだ。
汐里の家族とは初対面。
突然上がり込む上に手土産ひとつ持参していないなんて…とんでもなく失礼な人間じゃないか…?
やっぱり帰った方が賢明だ。
「汐里、俺…」
「お母さーん!救急箱ってどこー?」
「救急箱?何?汐里怪我したの?」
「ううん。私じゃなくて、友達が」
「友達?誰ちゃん?」
……。
声を掛ける隙もなく汐里は家の中に入り、お母さんと話をしている。
タイミングを逃した…。
二人の声がこちらに近づいて来たかと思うと、玄関横の扉から姿を現した汐里。
「お母さん、赤葦さんだよ」
後に続いて現れた汐里のお母さんに、会釈をする。
「初めまして。赤葦と申します。突然お邪魔してすみません」
俺の姿を見たお母さんの顔が、一瞬驚いたものへと変わった。
さっき「誰ちゃん?」なんて聞いていたし、きっと女友達だと思ったのだろう。
「いいえ…お怪我されたんですって?どこを…わっ、痛そう!どうしたの!?」
傷口が視界に入ったのか途端に顔を歪める。
その表情も驚いた反応も汐里とよく似ている。
遺伝子ってすごいな…なんて頭の片隅で感心している横で、汐里が簡単に事の経緯を説明しながら俺の目の前にスリッパを置いた。
「洗面所案内しますね。もう一度綺麗に洗った方がいいです」
「お邪魔します」
「どうぞ」
お母さんにもう一度会釈をして、汐里の後を付いて行く。
洗面所に入るなり、汐里は手にしていたガーゼの封を開けて洗面台の脇へ置いた。
「洗ったらこれ使って下さいね」
「ありがとう」
「玄関の隣リビングなんで、準備して待ってます」
「うん」
流水が傷口に触れたと同時にピリピリとした痛みが走る。
思わず眉をひそめ、治るのにどのくらい時間がかかるだろうか?とため息をつく。