第5章 glass heart【赤葦京治】
「ううっ…」
何だか子どもが泣いてるみたいだ。
自分の顔が綻ぶのがわかる。
「ほら。あんまり泣いてると、良太くんに笑われるぞ?」
まるで犬にでもそうするようにクシャクシャッと頭を撫でれば、汐里は困ったような顔をしてまた頷いた。
無事に良太くんを父親の元へ送り届け、俺たちは一気に脱力する。
バーベキューの片付けも済んだことだし、このまま解散…
「おっし!カラオケ行こうぜい!!」
…するわけないよな、木兎さんに限って。
「ほんっと元気だな、お前」
「黒尾も行くだろ?」
「まあ…いいよ」
「僕はお先に、」
「「行くよな!?ツッキー!!」」
二人に羽交い締めにされた月島が苦い顔をする。
そして渋々、「…はい」と声を漏らした。
月島も案外お人好しだと思う。
いつもなら俺も強制参加させられるところだけど、さすがに腕の傷を放置したままでフラフラしたくはない。
「じゃあ駅まで送るんで、俺はそのまま帰りますね」
「私も今日は帰ります」
汐里もきっと疲れたんだろう。
力ない笑顔で木兎さんたちの誘いを断った。
外はようやく陽が傾き始める。
そんな景色の中俺は来た道を走らせ、駅前のカラオケ店のそばで車を停めた。
「サンキューな、赤葦!また会おうぜ!」
「はい、お疲れ様でした」
帰りの助手席でも元気を持てあましていた木兎さん。
皆も外に出て、車内は一気に静かになる。
俺は窓を開けると、運転席から少しだけ身を乗り出した。
「汐里」
「はい?」
「送ってく」
驚いた顔で俺を見た汐里は、駅の構内を指差して首を振る。
「そんな、大丈夫です。電車ですぐだし」
「車の方がすぐ着くよ」
馴れない場所を歩き回って気を揉んで、きっと相当疲れてる。
まああの迷子事件がなくても、汐里だけ一人電車で帰すようなことはしないけど。
「いーじゃん、送ってもらえば!」
「そうそう、疲れたろ?」
せっつくように、木兎さんと黒尾さんが汐里の背中を押す。
戸惑った顔の汐里にもう一度声を掛ける。
「乗って」
「…はい。じゃあ…お願いします」
改めて三人に挨拶をしたあと、汐里は車の助手席に乗り込んだ。