第5章 glass heart【赤葦京治】
「良太くん、おいで!」
「……」
「一人で怖かったよね?」
「……うん」
「私、お父さんのいるところ知ってるんだ! "お姉ちゃん" と一緒に帰ろう?」
汐里…今 "おばさん" って言われないように先手打ったな?
……まあ、それはいい。
とにかく良太くんを無事に連れて帰らなければ。
ところが困ったことに、汐里が何を言ってもまだ良太くんに動く気配はない。
「赤葦さん、お父さんに電話かけてみてもらえません?声聞けば良太くん安心するかも」
「ああ、そうだね」
スマホからお父さんへ発信し、まずは良太くんが見つかったことを伝える。
耳元から安堵した声が届いたところで、今度は今の状況を伝え、お父さんから良太くんに話をしてもらうよう頼んだ。
汐里にスマホを渡し、お父さんと良太くんを繋ぐ。
「良太くん、お父さんから電話だよ。お話してみて?」
言われるままそれを受け取り、耳元へ当てる良太くん。
何やら話しているのを見守っていると、その声は段々上擦っていく。
子どもというのは、時に行動の予測がつかないことをするもので…
「……っ、おとうさんとこかえる~っ!!」
良太くんは何を思ったのか、勢いよく汐里に飛びついた。
「え…っ、きゃあぁっ…!!」
汐里の体がバランスを崩し、その場所から落ちてくる。
「…!?汐里っ!!」
咄嗟に手を伸ばした直後。
腕と腰に強い衝撃が走った。
反射的に閉ざした視界を開いてみると、俺の腕の中には身を固くした汐里。
その汐里の腕の中には、わんわん声を上げる良太くんがいた。
「…っ、良太くん!怪我してない!?大丈夫!?」
「ひっく、…うん…っ」
「よかった……、赤葦さんはっ!?怪我…!」
「ああ…」
俺の体の上から起き上がろうとする汐里に、腕の力を緩める。
「や…、血がっ…」
汐里の視線の先。
半袖で剥き出しになった俺の左腕には、大きな擦過傷ができていた。