第5章 glass heart【赤葦京治】
「良太くーん!」
確実に近くにいるであろう良太くんの名前を呼びながら、居場所を探す。
更に先を進めば、頭上から声が聞こえてきた。
視線を上げてみると…
「居た…」
泣いている男の子。
歳は、5歳くらい。
「良太くん!?」
汐里が呼び掛けると、わんわんと泣きながら俺たちを見下ろし、コクンと一度頷いた。
「よかった…!大丈夫だよ!お父さんの所に帰れるからね!」
しゃくり上げながら、またひとつ頷く良太くん。
その姿にホッとするものの、座り込んでいる場所が問題だ。
どうやらここは、廃材置き場とされている場所。
不揃いな木片が積み重なり、良太くんはそのてっぺんにいる。
遊具の感覚で登ったのかもしれない。
上まで行ったはいいが降りられなくなってしまったのだろう。
俺が登って連れてくるしかないか…。
廃材に足を掛け、上を目指す。
すぐに辿り着いたてっぺん。
まだ涙ぐむ良太くんを捉え、出来るだけ穏やかに声を掛ける。
「良太くん、一緒に下りよう。おいで」
クリクリした円らな瞳で俺を一瞥した彼はまた肩で呼吸をし、しゃくり上げながら涙を滲ませた。
「おとうさん…っ、しらない…おじさんに、ついてっちゃっ…ダメって、いったもんっ…!」
……おじさん?俺のこと?
正直、他人からそう呼ばれたのは初めてだ。
5歳の子どもからしたら俺なんて十分 "おじさん" になるのか…。
僅かに衝撃を受けたことは心に秘めておく。
何より、親の言い付けを守れるしっかりした子だ。
「お父さんとはお友達なんだ。大丈夫だからおいで?」
こんな誘拐犯みたいな台詞を口にする時が来ようとは…。
気を取り直してもう一度両手を伸ばす。
「や…だぁ、かおこわいもん…!」
……。
確かに俺は、子どもに親近感を覚えてもらえるような顔はしていない。
さて。どうするか……
「赤葦さん!」
下で待っていた汐里の声が届く。
「私、代わります」
「…大丈夫?」
「はい。大人の男の人じゃ怖いのかも」
「気を付けてね」
「はい」
俺が降りるのと交代に、今度は汐里が良太くんの元へ。