第5章 glass heart【赤葦京治】
「そうですね、いつか会ってみたいなぁ」
そう言って汐里はいつものように朗らかに笑った。
その後も、木兎さんが話題に出し続ける遥のことをニコニコ聞いている。
「もう彼女の話はいいですから。木兎さん、バレーの方はどうなんです?皆さんに迷惑かけてませんか?」
「お前は保護者か!!」
最初は、頭の中で否定していた。
そんな自意識過剰なことを思う自分も恥ずかしくて。
でも、俺と話してる時に頬を赤らめたり。
遥の話題から逸れると、ホッとしたようにそれまでの笑顔を閉ざしたり。
こういう場では、必要以上に俺と距離をとってみたり。
そんな汐里を見ているうちに、自意識過剰ではないのかもしれない…とも思えてきた。
汐里の笑顔がいつも以上に眩しく感じられて、思わず目を伏せる。
微かに痛む胸。
ごめん、汐里。
こんな風に無理させて…。
遥が俺の交遊関係に関わりたがらないのは、汐里のことを思えば都合がよかったのかもしれない。
ここに遥を連れて来るということは、同時に汐里を傷つけるということでもあるのだから。
先日迂闊にも遥をこの場に誘った自分を思い出し、あれは汐里に対しても失言だったとため息をつく。
必要以上に馴れ合うことはない。
けれど、あえて汐里を傷つけるようなことはしたくない。
ただでさえ汐里は無理して笑ってくれている。
汐里の気遣いを踏み潰すようなことは…したくない。
こんな風に考えている俺は、卑怯なんだろうか?
遥に対して、誠実ではないのだろうか?
考えて考えて…
でも、世の中答えの出る問題だけではない。
正解だってひとつではない。
だから、汐里の気持ちには気づいていないフリをする。
今の俺にできることは、きっとそれだけ。