第5章 glass heart【赤葦京治】
汐里は新しい割り箸を掴もうと手を伸ばす。
「汐里の箸でいいよ」
「え…そうですか?」
少し遠慮がちに俺を見た後、汐里は持っていた箸でトウモロコシを掴み、俺が差し出した皿の上にそれを乗せた。
「何?赤葦潔癖だと思われてたとか?」
「確かに!マスクとかゴム手とか似合いそうだよな!」
「無表情で除菌スプレー振り撒くの、想像つくわぁ」
…何を言っているんだ、この人たちは。
相変わらず意味不明なことで盛り上がるネコと梟。
こういうところは高校時代から全く変わっていない。
最早呆れを通り越して尊敬に値する。
「二人ともバカなこと言ってていいんですか?そこの肉、半分焦げてますけど?」
「何!?」
「それ木兎にやるわ」
「何で俺!お前も食え!」
賑やかな木兎さんたちとは対照的に、月島は一人座って缶ビールを飲んでいる。
「ツッキーもういいの?お腹いっぱいになっちゃった?」
「うん。ご馳走サマ」
「前から思ってたんだけど。少食なのによくそんなに大きくなったね」
「汐里はよく食べるのに小さいよね」
「ほっといてよ!」
「こっちだってほっといてよ」
汐里と月島も相変わらず。
初めての合コンの時からこの二人はこんな感じだった。
その後も、会うたびにお約束のように言い合いして。
そう言えば、汐里と知り合った頃は頻繁にこのメンバーで飲み会してたっけ。
ちょうど年末から年が明けた時期で、休みも合わせやすかったんだろう。
今では、あの時みたいにマメに集まることも難しい。
「そういや、赤葦!お前また遥ちゃん連れて来なかったな!」
唐突に木兎さんが遥の名前を出す。
ほんとこの人は…。何でそんなに他人の彼女に会いたがるんだ?
「一応声かけましたよ。でも遠慮しとくって」
これは嘘じゃない。
でも木兎さんの顔は不満げだ。
「マジかー?お前が出し惜しみしてるだけじゃねーの?」
「ちょっと意味がわからないんですが」
「汐里だって、前会いたいって言ってたのによぉ!なぁ?」
何の疑いもなく汐里に向けられる、木兎さんの言葉。