第5章 glass heart【赤葦京治】
仕事に追われていた日々も一段落し、ようやく訪れた夏休み。
遥との日帰り旅行を控えた今日、照りつける快晴の中、俺はバーベキューのための火を起こす。
「前から思ってたんスけど」
「なんだー?赤葦」
「何でみんなこんな暑い中バーベキューするんですかね?春とか秋にやった方が快適じゃないですか?」
「そりゃおめー、暑い方がビールが旨いからだろ!!」
得意気に仁王立ちする木兎さんに、「俺今日運転手なんスけど」と突っ込みたいところではあるが、暑さのためそんな気力もなく…。
ただ無心で炭と炎に向かって、うちわを扇ぎ続けた。
バーベキューの材料が焼けるくらいの火を起こしたところでお役御免と息を吐き、そばのアウトドア用の椅子に腰かける。
「赤葦さん、ありがとうございます。これどうぞ」
「ああ、ありがとう」
汐里が紙コップに注いだ烏龍茶を手渡してくれる。
汐里との付き合いは一年半くらい。
ほんとによく気が付く子だと思う。
すごく周りを見てるし、しっかりしてる。
賢い子なんだろうけど、その反面学校の勉強は苦手みたいだ。
時々珍回答を口にしては、黒尾さんにはからかわれ、月島にはバカにされ。
そんな姿は見ていて興味深く、それでいて可愛らしい。
中身を知れば知るほど、汐里には和ませてもらってる。
でも…
いつからだったか?
汐里の俺への態度が余所余所しいような気がし始めたのは。
ハッキリとは記憶にないけれど、たぶん、遥と付き合い始めた頃と同時期。
それに気づいた時。
その違和感の理由を思い当たらないほど、俺は鈍くはなく…
「やっぱバーベキューと言ったら肉だな!」
「お肉ですね!」
木兎さんと汐里は美味しそうに肉を頬張っている。
二人の姿をバーベキューコンロを挟んで眺めながら、俺も釣られるように口に肉を運んだ。
「ごめん、汐里。そっちのトウモロコシ取ってくれる?」
「あ、はい」
輪切りにした、程よく焦げ目の付いたトウモロコシ。
あっさりしたものも食べたくなって、汐里の目の前のそれを指差した。