第5章 glass heart【赤葦京治】
網の上の肉や野菜は綺麗に五人の胃袋に納められ、アルコールとお茶だけがその場に残った。
「お前今日飲めなかったから全部やるよ」という黒尾さんのお言葉に甘え、クーラーボックスごと持ち帰ることにする。
空き缶やゴミを手分けして片付け、あとは持ち込んだものを車に乗せるだけ、というところで、突如切迫した声がその場に響いた。
「すみません、子どもがいなくなってしまって…!5才の男の子なんですけど、見ませんでしたか!?」
血相を変えた男性が息を切らしている。
「いえ…見てませんね…。誰か気づきました?」
黒尾さんたちに尋ねるが、揃って首を振る。
こんな場所で迷子…。近くには川もあるし、万一のことがあったら…。
手分けして探した方がいい。
「俺たちも一緒に…」
「あの!」
その男性に捜索を提案しかけた時、汐里が声を上げた。
振り返ってみると、酷く動揺した顔をしている。
「もしかして…ボーダーのTシャツに赤いハーフパンツ履いた子…ですか?」
「そうです!どこかで見かけました!?」
「はい…トイレの前で。一人でいたので声を掛けたら、"大丈夫"って走って行っちゃって…」
「おい汐里、それどんくらい前の話?」
「たぶん、30分くらい前…」
黒尾さんとも視線を交わし、無言で意志疎通する。
早く探さないと。
5歳の子どもなら、30分の間に案外遠くまで行ってしまってる可能性もある。
「息子さんのお名前は?」
「良太です!」
「手分けして探しましょう。携帯教えてもらえますか?見つけたら電話します。そちらも何かあれば連絡いただけますか?」
「すみません、お願いします!」
男性が口にした携帯番号をスマホへ打ち込み、一度発信する。
連絡手段を確保したところで、走っていく男性に背を向け俺たちは逆方向を探すことにした。
「俺あっちの方探すわ。木兎たちは向こうな!もし見つけたら赤葦に連絡すること!」
「おう!」
散り散りに走り出す四人。
俺はその中の一人の腕を、咄嗟に掴んだ。
「汐里は俺と一緒」
「でもっ、」
「こんな場所に女の子一人じゃ危ないから」