第5章 glass heart【赤葦京治】
「何でよ…」
「は?」
「何でツッキーの方が先に私の気持ち知ってたの?」
「……」
「私はね、今日いっぺんに来ちゃったの…!自分の気持ちとか、赤葦さんへの感情とか、遥さんへの嫉妬…とか…!」
そうだよ…
自覚したの、つい数時間前なんだよ…?
「頭も心もぐちゃぐちゃで……笑う以外、私に何ができた?」
私は、赤葦さんのことが好きなんだ―――。
淡い感情が頭を掠めても、首を振ってきた。
これは恋じゃないって。
今までの恋の始まり方と違うって。
赤葦さんは、過去に好きになってきた男の人とタイプも違うって。
だけど……
そんなものと比べたって何の意味もなかった。
もう、とっくに恋だったじゃない。
赤葦さんは私の中で特別な人だった。
一緒に過ごせる時間が嬉しかったし、見たことのない表情が見られた時には心が踊った。
ほんの少し笑ってくれるだけで…
柔らかい声で名前を呼んでくれるだけで…
すごくすごく、嬉しかったの。
どうして気づかないフリができたんだろう?
四つのチョコレートのうちのひとつだけに、特別な想いを込めて。
赤葦さんにプレゼントする分は、できるだけ形のいいものを選んで、ラッピングにも気を遣った。
今思い返せば、呆れちゃうくらい赤葦さんのことばかり……。
「はぁ…、ほんとバカ」
ツッキーの口からは、またため息混じりの声。
バカはそのとおりだし、今は憎まれ口に反論する気にもなれない。
「赤葦さんにあげるはずだったの、どれ?」
「……これ」
「それは食べてあげないよ。変な念が込められてそうで怖いから」
ツッキーが手を差し出す。
その言い方は…赤葦さんのチョコ以外なら貰ってくれるってこと?
意外な申し出に戸惑っていると、私の前に掲げた手をプラプラ揺らす。
「早くしなよ」
「うん…」
同じラッピングで、リボンの色だけが違うチョコ。
そのうちの三つを、ツッキーに手渡した。
黙って受け取ってくれたそれをチラッと見下ろしたあと、「じゃあね」と小さく呟いてアパートの階段を昇って行く。
私の手元に残ったのは、赤葦さんへの想いの塊だけだった。