第5章 glass heart【赤葦京治】
家に入るなり真っ直ぐ自分の部屋へ向かう。
部屋の明かりも付けず、コートを脱ぐこともせず、倒れるようにベッドへ体を伏せた。
今までの赤葦さんとのやり取り、姿かたち、声。
思い出してはじんわり温かくなってた心が、今は酷く冷たい。
好きだと自覚してしまった途端、堪らなく苦しい。
あの人の全ては "遥さん" のもの。
髪に触れられたり、同じ傘の下を肩を寄せて歩いたり…彼女を思えば二度とそんなことを望んではいけなくて…
胸が痛い。
目の前が真っ暗。
こんなに好きになってたのに、どうして私、自分の気持ちと向き合わなかったの…?
赤葦さんへの本命チョコを、光太郎さんたちのものに紛れ込ませるなんて。
凄く凄く、ズルイ…。
こんなズルイ私、赤葦さんに見てもらえなくて当たり前だよ…。
さっきフローリングに投げたバッグ。
その中からチョコを取り出した。
まさか赤葦さんの手に渡らず、この部屋に帰ってきてしまうなんて。
このまま捨ててしまおうかと、ゴミ箱へ手を振りかざす。
でも、気づいたばかりの赤葦さんへの想いまで捨ててしまうようで、それはできなかった。
リボンを解きラッピングを開くと現れるトリュフ。
私が詰めたままの格好でそこに並んでる。
ひとつ摘まみ上げて、パクリとかじった。
「…っ、ちゃんと美味しいのにぃ…っ…」
口の中に甘く広がるチョコレートにココアパウダー。
ふた口目からは、もう味なんてしない。
気づいたら頬を伝っていた涙。
それを拭うこともせず、赤葦さんへの想いを全部お腹の中にしまいこんだ。
もう会わない方がいいのかもしれない。
でも、遥さんを連れてきてって言っちゃった…。
この次会った時、私、今までみたいにできるの…?
遥さんの姿を目の当たりにしても。
彼女といる赤葦さんを見ても。
もし、微笑み合っている二人を見ても。
私、今日みたいにちゃんと笑える……?
大きく首を振る。
今の私には、とてもじゃないけどそんな自信はない。
枕に顔を埋め、この部屋から声を漏らさないように…
私はただひたすら、泣き続けた。