第5章 glass heart【赤葦京治】
帰りの電車、その場所は程々に乗客で埋まっていた。
立ったまま、ボンヤリ窓を眺める。
笑顔をなくした私が映っていた。
すぐ隣にはツッキー。
一緒にはいるけれど、何も話さない。
車窓越しでも、視線は合わない。
あの後テツさんも合流して飲んで騒いでってしたけれど…今日は何だかとても疲れた。
光太郎さんの家からの帰り道は、いつも楽しい気分で電車に揺られていたはずなのに。
今日はただ疲れて、飲んでる最中も帰ることばかり考えていた。
最寄り駅に辿り着き、電車を降りる。
もちろん、ツッキーも。
帰る方向も同じ。
改札を出て少し先を歩いていたツッキーは、そこで初めて私に話しかけてきた。
「もう少し近く歩いたら?」
「……え?」
「こんな時間だし。一応女でしょ?」
言葉がかなり足りないけど、ツッキーの言わんとすることは伝わった。
夜も遅いし、一緒に帰った方が安全だって言ってくれてるんだよね。
何か、初めてツッキーに気を遣ってもらえた気がする。
「ありがとう」
「別に…」
ツッキーの隣に並び、再び歩き出す。
何も言わないのも、気を遣ってくれてるのかな?
それとも、ただ無関心なだけ?
チョコレート作ってきたのに、結局四人分のそれは、今も私のバッグに入ったまま。
ツッキーは…ツッキーだけは…それを知っている。
何だか私の方が居心地悪くなってきちゃって、別れ際、つい彼を引き留めた。
「あのさ…」
「何?」
「チョコレート、貰ってくれる?」
視線を合わせて少し黙ったあと、静かに頷いてくれるツッキー。
「……いいよ」
拒否されなかったことにホッとして、私はラッピングした四つのチョコを取り出した。
「え?一個でいいけど」
「いいじゃん。ツッキー甘いもの平気でしょ?」
「いや、限度あるし」
「いや、冷蔵庫入れときゃいいし」
「残りは汐里が食べればよくない?何で僕が…」
「だって……食べるの、虚しい……」
ツッキーは両手をコートのポケットにしまい込んだ。
少しの静寂。そして、白いため息を吐き出す。
「やっぱ好きだったんじゃん。赤葦さんのこと」
「……」
「無理して笑って…。痛々しいから」
心に突き刺さるツッキーの言葉。
だって、そんなのしょうがないじゃない…。