第5章 glass heart【赤葦京治】
光太郎さんの言葉の意味を噛み砕くことは、すんなりとはいかなかった。
彼女…って、言った?今……
鼓動が一気に速くなる。
思わず赤葦さんから目を逸らした。
「どうですかね…。彼女、人見知りするんで」
ああ……
聞き間違いじゃない。
光太郎さんの勘違いでも…ない。
「人見知り!?このメンバーでも!?」
「いや。知らない男三人いる時点で、人見知りには充分堪えると思うんですけど」
「えー?そっかぁ?…あ!!でも汐里もいんじゃん?女同士、気が合うかもよ!?」
赤葦さんの視線が私に向けられた。
やだ…
何か…言わなきゃ…
ちゃんと、普通に、いつもみたいに…
「あ…かあしさん、彼女いるんですね!知りませんでした!毎回女一人じゃ寂しいし、私も会ってみたいなぁ」
「だよなぁ!中学の時の初カノと復縁だってさ!新年早々彼女出来ちゃって。羨ましい奴ー!」
「初カノと?少女マンガみたい!羨ましい!」
光太郎さんと二人、赤葦さんを挟んで盛り上がる。
ううん…
盛り上がったフリをする……。
何で私…こんなこと言ってるの?
思ってもいないこと口にして。
無理して笑って……。
本当は会いたいなんて思ってない。
彼女がどんな人かなんて、知りたくない。
こんな話もしたくない。
だけど……
今ここにテツさんはいなくて……
こんな話題、ツッキーは食いつかないのわかるし……
私が、話さなきゃ……
私の口から出てくる言葉は、心で思っていることとは別のものばかり。
この空気を何とか取り繕わなきゃ、ってそればかり。
一瞬でも気を緩めたら何かが崩れ落ちてしまいそうで…。
私はずっと、偽りの笑顔を張り付けていた。
何を話したのかなんて、あまり覚えていない。
知ったのは、名前が "遥さん" だということ。
赤葦さんと同い年で、中学の時に初めて付き合った彼女だということ。
年末にクラス会をして、そこで再会したのだということ。
光太郎さんが根掘り葉掘り聞くことに、赤葦さんは簡単に答えていただけ。
だけど私にとってその時間は、とてつもなく長く感じられた。