第5章 glass heart【赤葦京治】
「ねぇ、ツッキーって彼女いないんだよね?」
「なんなの、さっきから。本命チョコがどうだとか」
「だから!彼女いたとしたら、手作りのチョコなんて渡したら悪いかなって思って…彼女に対してね。それが義理チョコでもさ」
「へぇ。意外とまともな考え方できるんだね。ビックリ」
「彼女いるの?いないの?」
「いない」
「あっそ」
もう!
いちいち嫌味言わないと気が済まないのかな、この人は!
少々微妙な雰囲気になりながら、私たちは光太郎さんの家に向かった。
出迎えてくれたのは、赤葦さん。
途端に、ここへの道すがらギスギスしてた気持ちがほぐれていく。
「こんばんは」
「こんばんは。月島と一緒に来たんだ」
「たまたま一緒の電車だったってだけです」
ツッキーはやけに棘のある言い方をしたあと、「お邪魔しまーす」って一人玄関をすり抜けて行った。
何か私、ツッキーによく思われてないのかな。
いつまで経っても距離を縮められる気がしないんだけど…。
「汐里?入ったら?」
「あ、はい…お邪魔します。光太郎さんは?」
「黒尾さんと電話中」
「そうですか」
一緒にリビングに入って、コートとバッグを置かせてもらう。
「つまみ適当に買ってきたけど。あと、ピザ。好き嫌いあった?」
「いえ。何でも食べられます」
「うん、そんな感じだね」
「 "そんな感じ" ?どんな感じ?」
「健康的な感じ」
「ふふっ、褒め言葉ってことでいいですか?」
「もちろん」
やっぱり赤葦さんの持つ空気は心地いい。
少し勝手もわかってきた光太郎の家のキッチンで、食器やお酒を準備。
テツさんはどうやら電車が遅れてるとかで、ここに着くのは遅くなるらしい。
ってことで、取り合えず四人で飲み始めることに。
「つーかさ、四人でいると絶対黒尾に集まってくのな、女の子って。何でだと思う!?」
話題はここにいないテツさんの話。
光太郎さんは不満げに缶ビールを煽る。
「きっと一番話しやすいんですよ、少し軽い感じが。赤葦さんは物静かな雰囲気だし、ツッキーは氷の王子様だし」
「…変なキャッチフレーズ付けるのやめてくんない?」
「だって、綺麗な顔だけど怖そうで冷たそうなんだもん。ピッタリでしょ?」
ツッキーは眉を寄せて私を睨む。