第5章 glass heart【赤葦京治】
翌日の夕方。
上手に出来上がったトリュフをルンルン気分でラッピングし、家を出た。
電車に乗って向かう先は、短期間にもう三度目になる光太郎さんのマンション。
みんなどんな反応するかな?
光太郎さんは無条件に喜んでくれそう。
テツさんは、冷やかしながらも褒めてくれるだろうな。
「不器用な汐里にしては上出来」とか言って。
ツッキーは…食べてくれるかな?
何せ、私が毒でも盛りそうな疑いっぷりだったもんな…。
赤葦さんは……。
味見した限り、ちゃんと美味しかったし大丈夫だと思うけど…。
手作りNGだったらどうしよう…。
もし潔癖症だったら…?
チョコレート嫌い、とかないよね?
あ、そう言えばこの前チョコケーキ食べてた!
それなら平気かな…?
何だかドキドキしてきた。
車内は混んでいるけれど、出入口の真横を確保できた。
もう陽も落ちた窓の外。
ガラスには自分の顔が映し出される。
大切な人のために選んだプレゼントを渡す前のような…
期待と不安が入り交じったような表情だ。
そんな顔をした自分に気恥ずかしさを覚えながら電車を降り、改札へと向かう。
途中、一定方向に歩みを進める人波の中に飛び抜けて背の高い男の人を見つけた。
誰なのかはすぐ分かり、早足に背中を追いかける。
「ツッキー!」
「…ああ」
「同じ電車だったんだ」
「そうみたいだね」
チラッと私を見下ろしただけで、ツッキーは足も止めずホームを進んでいく。
「ねぇねぇ、チョコ作ってきたから食べてね」
得意気にニッと笑えば、すぐさま渋い顔をするツッキー。
「大丈夫なの?味見…」
「ちゃんとしました!ちゃんとトリュフだし!ちゃんと美味しかったし!」
「キミの味覚はどうなの?」
「そこ疑う?作っちゃったんだから貰ってよ。まあツッキーなら義理チョコどころか、きっと沢山本命貰うんだろうけどさ?」
「貰わないよ」
「え?意外!」
「くれようとする人は沢山いるけど。"受け取らない" って意味ね」
「うわー…何か腹立つー…」
でもツッキーらしいかも。
本命チョコなんて易々と受け取らない、後々面倒くさい、とか考えてそう。
いかにも女の子受け良さそうな綺麗な顔しておいて、こんなに辛辣な性格だもんね。
ツッキーのこと好きな女の子は大変だな…。