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フォンダン・ショコラ【ハイキュー!!】

第5章 glass heart【赤葦京治】



「あったかい…」

「そう?よかった」

首元を温めてくれてるマフラーには、赤葦さんの体温も移ってる。
何だかすごく気恥ずかしい。


温かくなったのは体だけじゃなくて…
胸の奥も、ポカポカする。

それから、どうしてだろう。
ほんの少しだけ、涙が出そうになる。

よくわからない何かが、心の底から溢れそうな感覚。
味わったことがあるような、ないような…。

改めて赤葦さんを見上げてみるともう私に視線は向いてなくて、真っ直ぐに前を見据えている。
それをいいことに、瞳の中に彼の横顔を映した。


最初は "恥ずかしい" って思ってた傘の中の距離が、だんだん "嬉しい" に変わる。
光太郎さんのマンションが見えてくると、ほんのり寂しさすら覚えた。




エントランスに入って、赤葦さんが傘を閉じる。

「濡れなかった?」

「はい、大丈夫です」

私を気遣う言葉をくれたあと、二人の距離はまた元通り。
ひらいてしまう、一定の間隔。

それを残念に思う私は、おかしいのかな…?





光太郎さんの部屋は、暖房の効いた暖かな空間で心地いい。
貸してくれたマフラーを丁寧に畳み、彼に差し出した。
その時、少しだけ触れ合うお互いの指先。



「…?どうした?」


「いえ…、ありがとうございました…」



返したマフラーと一緒に、何かを持っていかれたような気がする。
私の首元には、赤葦さんがくれた温もりが居座ったまま。
まだ温かい…とても。






本当は、この時もう気づいてたんだ。
赤葦さんだけが違うって。


光太郎さんとも、テツさんとも、ツッキーとも違う。
私の中で、赤葦さんだけが "特別な人" になってる。


でもそれを恋だと結びつけるには、あまりにも単純な気がした。


赤葦さんのこと、ほとんど知らない。
恋と呼ぶには、日が浅すぎる。
今まで好きになった人とタイプも違うし。
それに恋が始まる時は、いつだってワクワクと胸が踊っていた。


だから、頭に過った "恋" という単語を打ち消して…
私はそれに気づかないフリをした。



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