第5章 glass heart【赤葦京治】
ふと黙り込んだ赤葦さん。
不思議に思って見上げてみると、何ともくすぐったそうな顔をしていて。
また新たに発見した赤葦さんの顔に、私の頬は綻ぶ。
「オヤオヤ~?さては照れてますね?」
何だか可愛くも見えてしまって、つい冷やかすみたいに顔を覗き込んだ。
高い位置から視線だけを下ろした赤葦さんは、少し渋い顔をする。
「年上をからかうもんじゃアリマセン」
そう言いながら、赤葦さんの拳が私の頭に軽くコツンと触れた。
「……」
わ…
わわっ…!
頭コツンされた…!
ナニソレ?ナニ、今の!
もう、赤葦さんってほんっとに掴めない!
何て返したらいいのか。
この頭コツンは突っ込んだ方がいいのか。
赤葦さんへの正解がわからなさ過ぎて…
「ご…ごめんなさい…」
普通に謝ってしまう。
「え、別に。冗談だよ?」
はい、わかってます!
わかってるんですけど…!
頭の中は激しく混乱中。
そんな状態だとは知らない赤葦さんは、私の姿を見ながら至って普通に話しかけてくる。
「雨降ってきたから余計寒いね。平気?」
「はい…めちゃくちゃ寒いですね…」
正直、返事の内容はどれでもいい。
変な間が空いてしまわなければ、それでいい。
私はただ、同調するように呟いた。
赤葦さんの足は止まる。
「汐里、ちょっとこれ持ってて」
「?」
傘はそのままに、私にコンビニの袋を手渡してくる赤葦さん。
首に巻いたマフラーを片手で器用に外し、そっとこちらに差し出した。
「使って?風邪引くから」
「え…」
確かに寒いけど、我慢できないほどじゃない。
適当な返事をしてしまったことが酷く申し訳なくなる。
「大丈夫です、そこまでじゃ…」
「俺は平気だから。汐里の格好のが寒そうだよ。この前のカイロのお返し」
気を遣わせないようなその言い方に。
赤葦さんの優しい顔と、柔らかい声に。
ドキドキが止まらなくて…
夜道でよかった。
しかも、雨が降っていてよかった。
明るい場所じゃ、こんなに熱を持った顔隠しきれない…。
「…ありがとうございます。じゃあ、お借りします」
「うん」
マフラーを受け取る。
たぶんカシミヤかな…肌触りがいい。
チャコールグレーのそれをクルッと巻いて、赤葦さんを見上げる。