第5章 glass heart【赤葦京治】
赤葦さんの腕が肩に触れて、声もすごく近い。
胸がドキドキして、自分が今上手く話せているのかもわからない。
でも、意識してるのは絶対私だけだってわかる。
たぶん赤葦さんは、同じ傘の下にいるのが絶世の美女だろうと光太郎さんだろうと、一緒の反応する人なんだと思う。
人のことこんなに緊張させといてシレッとしてるんだから、狡い…。
大人の余裕を感じてしまう。
「何か赤葦さんて、モテそう…」
さっきもチラッと脳裏に浮かんだことを口にしてみる。
「…え。俺?」
赤葦さんは意外そうな顔で私を見下ろした。
「優しいし、気配りも上手だし、背も高いし。それに…アイス奢ってくれたし」
「ふっ…、最後の何?無理に褒めてくれなくても、アイスくらいまた奢ってあげるよ」
そう言って、小さく笑う。
僅かに綻んだ顔に、胸が鳴るのを自覚する。
たまにその顔を見られると、すごく嬉しくなるんだ。
飛び上がるような嬉しさじゃなくて、ルンルンと心が弾むようなそれでもない。
胸に何かが染み渡っていくような、じんわりとした喜び。
「無理に褒めてるワケじゃなくって!ほんとにそう思ったんですよ?」
一瞬でどぎまぎしてしまった心を誤魔化すように、ムキになったフリをする。
「そう?じゃあ、ありがとう。でも別にモテないよ。身長だって、バレー辞めたら特別得することもないし」
「そうなんですか?うちの弟なんて、もう少し身長あったらなーって、いつもボヤいてますよ?」
「頑張ってる?弟さん。サッカー」
「はい、相変わらず。私も影響されてルールとかポジションとか覚えちゃって」
「仲いいんだね」
「まあ、はい。赤葦さんはセッター?でしたよね、ポジション」
「うん、そう」
前に光太郎さんから聞いた。
同じ高校でバレーしてたこと。
赤葦さんは2年生ながら副主将で、正セッターで。
チームになくてはならない、頭脳派の選手だったってこと。
「光太郎さん、言ってましたよ。優秀な選手は沢山見てきたけど、一番自分のこと理解してくれたセッターは、赤葦さんだって。たぶんこの先も、俺にとっての一番のセッターは赤葦だ!って」