第5章 glass heart【赤葦京治】
「どっちでもありません!ちょっと厚着してきちゃっただけです!」
リビングに戻り、男3人の会話をピシャリと止める。
「へぇ?じゃあ、脱いじゃってもいいよぉ?」
「おう、脱いじゃえ脱いじゃえ!」
ニヤつくテツさんと光太郎さん。
テツさんとの付き合いで、セクハラ発言は慣れっこだもんね。
「我慢できなくなったら、遠慮なく脱がせてもらいますね?」
私も負けじと笑顔で返す。
「え…やめてよ…見たくないから」
一方、私たちの会話に眉をひそめ、心底嫌そうにする月島くん。
「わかってるよ!冗談だし!」
「え、そうなの?」
「そうだよ!」
私のことどんな女だと思ってんの?
もしかして、既にすごく印象悪いのかな…。
「はいはい、皆さん。準備できましたよ」
空気を変えるように、赤葦さんが鍋を運んでくる。
「いやっほ~い!」
「早くカニ入れようぜー!」
光太郎さんたちは、もうすっかりカニモード。
カセットコンロにセットしたそれを、早速火にかけてる。
あ、お酒まだ出てない。
取り皿も。
あと、カニの殻を入れるお皿…。
キッチンに戻ってお盆を借りて、お酒と割り箸を乗せる。
「えっとお皿は…」
「ここだよ」
赤葦さんが食器棚から取り皿を出してくれる。
「俺持ってく」
「すみません。あ、私ウェットティッシュ持ってきたんですけど、使います?お手拭きに」
バッグから携帯用のウェットティッシュを取り出す。
「え、ほんと?ありがとう。準備いいね」
「はい、カニ食べるなら欲しいかなって」
「しっかりした子がいると助かるよ。何せこのメンバーだから」
「あー…」
「察してくれた?」
「はい。テツさんも頼れるけど、悪ノリが多いしなぁ」
「そうそう」
リビングに全員揃って、グツグツ煮立った鍋を囲む。
それから、それぞれアルコールを手にして…
「今年もお疲れさん!かんぱ~い!」
光太郎さんの乾杯の声で、カニ鍋忘年会が始まった。