第5章 glass heart【赤葦京治】
別に何本か抜けるくらい平気なんだけど、赤葦さんは絡んだ髪の毛を丁寧にほどいてくれた。
「とれた。ごめんね、痛かった?」
「いえ、大丈夫です…」
私の頭を見ながら、赤葦さんが申し訳なさそうに言う。
「ごめん…何かすごい髪型崩れちゃった。せっかく可愛かったのに」
「……」
可愛かったのに…
可愛かったのに?
"可愛い" って言われた!?
……。
あ。違う違う。舞い上がるな、私。
髪型が、だよね…。
「大丈夫です、ちょっと直してきますね。光太郎さん、洗面所貸して下さい」
「おう、ドア出てすぐんトコー」
洗面所を借りて、ピンを抜いて髪の毛をほどく。
鏡の中の私は、顔を真っ赤に染めていた。
これ、赤葦さんに変に思われたんじゃ…。
ちょっと体密着して髪に触られただけで赤面するって…。
きっと、テツさんや光太郎さんならこんなことにはならない。
意識し過ぎだよ…私…。
「ハァ…」
思わずため息が漏れる。
「チョット…いつまでそこ占領してんの?」
「…っ!?」
突然の声に振り返る。
そこに立っていたのは…
「月島くん?え?家ん中いたっけ!?」
「仕事終わって今来たんだけど」
「そう。…で、何でそこに?」
「外から入ってきたら、手洗いうがいするでしょ」
「あー、そうだね…。どうぞ?」
月島くんが入れるように洗面台からずれて、端っこの方で適当に髪を結ぶ。
「何でそんな顔赤いの?」
手を拭きながら横目で私を見てくる。
「……暑いの」
「……へぇ」
大して興味無さそうに呟くと、月島くんはさっさと洗面所から出て行ってしまった。
変に絡まれなかったことにホッとする。
けれど次の瞬間、リビングから余計なひと言が聞こえてきた。
「木兎サーン、何か汐里暑いらしいですよ。顔真っ赤にしてます」
な…!?
やめてよっ!!
「え、マジで?むしろ寒くね?暖房の温度あげた方がいいかと思ってたんだけど」
「でも逆上せたみたいに顔赤いですよ。更年期ですかね」
「赤葦がエッチなことでもしたんじゃねー?変態飼ってるだろ、あいつ」
全然更年期って歳じゃないし!っていうか何失礼なこと言ってんの、テツさん!!