第5章 glass heart【赤葦京治】
光太郎さんが住んでいる高層マンションは、エントランスも広くて上品。
ロビーの待ち合いスペースもホテルのような造りだ。
合コンの時のノリから、年上にも関わらず勝手に弟みたいだと思っていたけど。
そう言えばプロのバレーボール選手だっけ。
そんな事実もすっかり忘れていた。
エレベーターで最上階に昇り、赤葦さんの後ろを付いていく。
いくつものドアの前を通り過ぎ、その足は突き当たりの部屋で止まった。
赤葦さんがインターホンを鳴らす。
「はいはいは~い!」
リズムに乗るような軽快な返事と共に、ドタバタ鳴る足音。
声の主が光太郎さんだとわかり、思わず頬が緩む。
「いらっしゃーい!」
勢いよく開いたドアから、ツンツン頭の光太郎さんが顔を出した。
「こんばんは、光太郎さん。今日はお招きいただきありがとうございます」
ペコリと頭を下げる。
「オマネキ…?しっかりしてんなぁ!んな堅い挨拶いいって!入んな?」
「はい。お邪魔します」
出されたスリッパを履いて廊下を進むと、リビングにはテツさんがいた。
テーブルの上には、沢山のカニ。
「よお、汐里。おっつー」
「お疲れ様です。すごい量ですね…」
「だろ?この忘年会、毎年恒例なのよ」
カニの甲羅にハサミで切り込みを入れながら、テツさんが言う。
光太郎さんも同じ作業をしていたようで、ラグに腰を下ろした。
「親戚のおっちゃんが福井にいてさ。毎年送ってくれんの。もちろん一人じゃ食いきれねぇから、こうやってみんなでカニ鍋すんだよ」
ハサミ片手に、パチンパチンと甲羅に切れ目が入っていく。
「私も手伝います」
「ああ、サンキュ!でもハサミ2本しかねぇし、野菜切ってくれるか?さっき買ってきたの、出しっぱだから。赤葦ー、キッチン案内したげて?」
「はい」
赤葦さんと一緒に入ったキッチンには、白菜、キノコ、豆腐、春菊など鍋の材料がその場所を占領していた。
「え…これ全部鍋用ですか?」
「男4人いるとね、結構食うんだ」
よくよく見れば、鍋もカセットコンロも2つずつ。