第5章 glass heart【赤葦京治】
光太郎さんの家へと向かいながら、普通にお喋りする。
そう、普通に。
よかった…。
妙に緊張してたから、上手く話せないかも…なんて思ってたけど。
「女の人は髪型で雰囲気変わるから、迂闊に声掛けられないよね」
「そうかもしれませんね。でも、ひとり言聞かれてたのが赤葦さんでよかった」
「え?」
「だって赤葦さんは優しいもん。これが月島くんだったら、絶対バカにされてる」
この前のノリを見る限り、相当手厳しい人に違いない。
「テツさんなら、きっと引くほど大笑いされるだろうし。光太郎さんなら…」
「南十字星で納得するだろうね」
「ふふっ、ですね」
どうしてかな?
表情も声色もあまり変わらない人なのに、そんなの気にならなくて。
たぶん、赤葦さんが纏ってる空気のおかげ。
自然に話せるし、自然に笑える。
そうか…
居心地がいい人って、こういう人のことを言うのかな…。
「寒いね…」
ボソッと小さく呟いて、赤葦さんは肩をすくめる。
私はポケットの中で握っていたカイロをひとつ取り出した。
「よかったらどうぞ?」
「え?ああ、大丈夫。汐里寒いだろ?」
「もう一個あるんで。ほら」
二つ目のカイロを出すと、彼はそれを見て少し顔を綻ばせた。
「用意いいんだね。じゃあ、ありがとう」
「はい」
「カイロなんて使うことないな…」
「本当ですか?温かいでしょ?」
「うん。新たな発見」
「えぇっ?大袈裟ですよ!」
並んで向かう、光太郎さんの家。
10分くらいで着くって言ってたけど。
もう少し遠くてもいいのにな…。
二人で歩けることと、
何気ない言葉を交わせることと、
そんな何気ない会話で笑顔になってしまうこと。
そして、もう普通に "汐里" って呼び捨てしてくれること。
そのどれもが嬉しくて、夜道の寒さなんて全く気にならなかった。