第5章 glass heart【赤葦京治】
駅前のお気に入りのケーキ屋さんで人数分のケーキを買った後、ホームから光太郎さんに連絡を入れて、電車に乗った。
年末の夕方の車内。
普段ならスーツ姿のサラリーマンが多く目につくけれど、今日は違う。
老若男女、様々な年齢層の乗客がひしめき合っている。
待ち合わせの時間の少し前。
目的の駅で電車を降りた私は、改札横で光太郎さんを待つことにした。
今日も寒いな…。
ケーキの箱が入った袋とバッグを片手に引っ掻ける。
カイロ持ってきて良かった。
コートのポケットの中にひとつずつ入れたそれを、キュッと握る。
両手を温めつつ、すっかり暗くなった空を見上げた。
冬は寒くて苦手だけど、見上げる星が綺麗に見えるところは好き。
「あれ…有名な星座だったよね…何だっけ?北斗七星?カシオペア?さそり座?乙女座?」
他に知ってる星座の名前…
「あ!南十字星!?」
「オリオン座だよ」
「……え?」
突然の声に驚いて、振り返る。
そこにいたのは、私の記憶の中と同じ…穏やかな顔をした、赤葦さんだった。
「あ…かあしさん!?光太郎さんは!?」
「黒尾さんと買い出し行ってる。汐里を迎えに行くよう頼まれて」
「あ…そうなんですか…。わざわざありがとうございます…」
「いえいえ」
「……今の……全部聞いてました?」
「うん」
ガーン……
穴があったら入りたい…。
「バカだと思いました?」
「別に。思ってないよ」
「ほんとに!?」
「うん。でも、ひとり言大きいなぁ、とは思った。ちなみに、南十字星は東京じゃ見られないよ。もっと南に行かないと」
「えっ!そうなんですか!?」
バカ丸出し…
笑い飛ばしてくれた方が、まだ救われる…。
「遠目だと、汐里かどうか自信なかったんだけど。この前と髪型違うから」
そう言って、自分の頭頂部を指先で叩く赤葦さん。
ああ…おだんご?
確かに、この前は髪下ろしてた。
「ひとり言聞いてたら、人違いじゃないなって思って」
「あ!やっぱりバカにしてる…!」
「してないよ。面白いなって思っただけ」
「面白い…?はどう受け止めたらいいのか…」
「褒め言葉だよ。汐里もこの前俺に言ったよね?」