第5章 glass heart【赤葦京治】
「私行ってもいいんですかね?」
『はぇ?何で?』
「月島くんに鬱陶しがられるかもー…なんて」
『この前の気にしてんの?ツッキーは愛想がないのが基本!それに、本気で嫌な奴とは言い合いすらしねぇ。喋んないから』
「そうなの…?」
『そうなの!だから来い!』
確かに、お世辞にも愛想がいいとは言えないタイプの人だった。
光太郎さんがそう言うなら、大丈夫なのかな?
月島くんはいつもあんな感じだって、テツさんも言ってたし。
「じゃあ、遠慮なく!ていうか、女の子私だけ?みきは?」
『それ、今聞く…?』
途端に電話越しの声がドヨーンと淀む。
光太郎さんて分かりやすい人。
上手くいかなかったんだな…。
「明日ゆっくり聞きますね、お酒飲みながら」
『えっ、気になるだろ?明日まで待てる?』
聞いて欲しい全開だ…!
「待てます」
『今話してもいんだぜ!?』
「私がよくないですよ!今外なんです!すっごい寒い!」
『何だよー、ケチ!』
「風邪引かせるつもりですか!?」
ブツクサ言う光太郎さんから最寄り駅と明日の時間を聞き出して、私はようやく電話を切ることができた。
途端に、胸の音が早くなる。
さっき、赤葦さんも来るってわかった時。
フワフワした落ち着かない感情が込み上げてきた。
大人な雰囲気の中に垣間見た、柔らかな笑みや少し幼い表情。
耳に心地いい声。
一度会っただけなのに、こんなにもハッキリと思い出せる。
ドキドキする胸を誤魔化すように、駅までの道をヒールを鳴らして足早に進んだ。
明日…何着ていこう。
上手く話せるかな…?
今度はお酒控えなくちゃ。
ケーキ買っていく、なんて言ったけど、赤葦さんこの前デザート食べてたっけ?
甘いもの大丈夫?
また会えたらいいなって、そう思った人。
じゃあ、明日会えたら?
今度は私、何を思うのだろう……?