第5章 glass heart【赤葦京治】
「店長、お先に失礼します」
「あ、お疲れ汐里ちゃん。よいお年をー!」
「よいお年を」
あの合コンから1ヶ月。
浮かれムードのクリスマスをやり過ごし、今日は仕事納め。
私の勤務先はエステサロン。
店長に挨拶をして、職場のフロアからエレベーターを下りビルの外へ出る。
「さっむ~っ!!」
冷たい向かい風に思わず声を上げてしまう。
マフラーを口元まで引っ張り、肩を丸め歩き出す。
今日はお母さんの仕事が休みだから、夕食の心配はない。
急いで帰る必要はないけれど、この寒さだ。
早く駅に着いて風を凌げる場所に隠れたい。
ひたすら目的地に足を運ぶ中、スマホの着信音が音を立てているのに気づく。
かじかむ手でバッグからそれを取り出し、画面を確認する。
「あ…。光太郎さんだ…」
始めて合コンしたあの日。
一応みんなで連絡先を交換をした。
帰ってからお礼のLINEは全員に送ったけれど、こうして電話がかかってくるのは初めて。
なんだろう?
指をスライドさせて、通話に切り替える。
「もしもーし?」
『おーっす、汐里!俺、光太郎だけど。覚えてる?』
「もちろん、覚えてますよ」
あんなにインパクトのある人、忘れようと思ったって忘れられるワケがない。
『よかった!この前はサンキューな!』
「いえ、こちらこそ。どうしました?」
『あのさ、明日暇?』
「暇です」
即答だ。
仕事は休みに入るし、家の大掃除はサボりたい。
『よっし!じゃあさ、俺んちで忘年会やるから来いよ!』
「え、光太郎さんち?」
『そ!カニ鍋~!』
「カニ!?わっ、大好き!」
光太郎さんにもまた会いたいって思ってたし!
突然の楽しそうな誘い、ワクワク以外ない。
「何用意します?材料とか、お酒とか」
『あ、その辺は平気。黒尾と買い出し行くから』
「そうですか?じゃあ、ケーキでも買って行こうかな。人数は…」
『俺、黒尾、赤葦にツッキーの四人だな!』
赤葦さん、来るんだ……。