第5章 glass heart【赤葦京治】
「少し休んだら戻りますから」
出来るだけ笑顔を作って、赤葦さんを部屋へ促す。
「そう…」
小さく頷いて、その足は私から離れていく。
何だか気を遣わせてばかりで、申し訳なくなる。
後で改めてお礼言わなきゃ。
壁に頭を預け目を瞑りながらボンヤリそんなことを考えていると、真横に誰かが腰掛ける気配がした。
顔を上げてみれば、部屋に戻ったと思った赤葦さんが…。
手には自販で買った、缶コーヒー。
もしかして…それを買いに行っただけ?
「あの…赤葦さん…」
「一緒にいる。今度こそ、変な男に絡まれるかもしれないし」
さっきの人は、たまたまいい人だったってだけで。
赤葦さんの言葉を否定することはできない。
「すみません。大人なんだから、飲む量くらい加減しなきゃダメですよね…」
迷惑かけてる…。
心底、自己嫌悪。
「木兎さんのノリに付き合ったんだよね。なんかごめん…」
「いえいえ!赤葦さんが謝ることじゃ!…って、何か赤葦さんって、光太郎さんのお世話係?」
「そうかも」
「赤葦さんいなくて、向こう大丈夫ですか?」
「黒尾さんいるから平気」
「ああ…、ですね」
決して口数の多い人ではない。
でも、赤葦さんの持つ緩やかな空気は独特で。
何だかとても優しい。
普段私が遊ぶ男友達は、テツさんや光太郎さんみたいな人ばかり。
ノリがよくて、明るくて、沢山笑わせてくれる人たち。
赤葦さんは、その中の誰と比べてみても違う。
時々ポツリポツリと話す声に耳を澄ませてみる。
低過ぎず高過ぎず、柔らかな声に、ゆっくりとした丁寧な話し方。
今日会ったばかりの人と、二人きりでいるのに。
赤葦さんにとっては、きっと迷惑でしかないのに。
不思議…。
もう少しこうしていたい、なんて。