第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「テツさん、バカですか?」
「だな!大バカ野郎だ!」
「…二人とも、オブラートに包みましょうか」
汐里と木兎からの言葉が胸を刺す。
いーんだよ、赤葦。
俺は大バカ野郎なのさ…。
「そんな一方的に距離を置くなんて。余計に梨央さんのこと傷つけてるじゃないですか!」
「そーだそーだ!離れていいことあるのか?溝深めるだけじゃねーのかよ?」
「……わっかんねーよ、俺にも。そうかもしれねぇ。でも、梨央にあんな顔させた自分が怖いんだよ。ただでさえ、同僚の女と一夜を明かして疑われるようなことしてんのに。今以上に梨央を傷つける存在が、俺自身かと思うと…」
情けねぇのはわかってるし、こいつらにこんな話をするのも初めて。
ああ…ダセェとこ見せてるな…。
「でもなぁ…。ヤッてはねぇし、キスも事故みてぇなもんなんだろ?梨央ちゃん、黒尾のこと信じてやりゃあいいのにな。好きな男の言うことなら、信じられるもんなんじゃねぇの?」
木兎は素朴な疑問を投げ掛けるように言うと、ドリンクの氷をガリガリかじる。
「好きだからこそ、怖くなるんですよ。好きな人のそばにいる女の人が魅力的に見えて、自分に自信がなくなったり。疑う自分が嫌になったり…。テツさんを信じるとか、それだけのことじゃないんです」
「……そういうもんか?」
いつになく真面目な汐里の物言いに、木兎も真剣に耳を傾ける。
「もしかして…」
黙って聞いていた赤葦が口を開いた。
「梨央さんて、元カレに浮気されたこととか、あるんじゃないですか?」
「え?」
「それで人一倍、そういうことに敏感になってるとか」
「元カレ…?」
確かにあの元カレは最低野郎だった。
でも、浮気されたって話は聞いてない。