第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
目的のファミレスに到着すると、一番奥の禁煙席にムササビヘッドが見える。
つか、何でファミレス?
学生時代に戻った気分だ。
「よお。お待たせ」
空いている木兎の隣に早速腰掛ける。
「おう!お疲れさん!久しぶりだなぁ、黒尾!」
「お疲れ様です」
「こんばんはー、テツさん」
木兎の前にはハンバーグでも食ったのか、空の鉄板。
赤葦の前にはコーヒーカップ。
汐里の前にはガトーショコラ。
俺も取り合えずドリンクを頼んで、スーツのジャケットを脱ぐ。
「んで、何でファミレスなの?」
「光太郎さんが、 "腹減った!何か食べたい!すぐ食べたい!" って駄々こねて」
「おいっ!駄々こねるとか言い方!」
「一番近くにあった店がここだったんです」
赤葦がコーヒーを啜りながら、汐里の言葉を繋ぐ。
「へぇ、そうなの。それ、うまそうだね」
「食べます?」
「サンキュー」
汐里からガトーショコラをもらって、ひと口食べる。
うん…うまい…。うまいけど…
梨央の作るスイーツを思い出して、ほろ苦いチョコレートが何だか余計に苦く感じた。
「なあなあ、梨央ちゃん元気?」
まだ何か食うつもりなのか、メニューを見ながら聞いてくる木兎。
「んー…ちょっと今、会ってなくてさ…」
三人の視線が俺に集まった。
しばしの沈黙。
「は?え?何、喧嘩?」
「喧嘩っつーか。まあ、俺が悪いんだけど…」
「何!?浮気でもした!?」
木兎め…。
またデリケートな単語を出してきやがる…。
赤葦と汐里は、黙って俺たちのやり取りを聞いていた。
木兎に促される形で、事の成り行きをざっくりと話す。
梨央と大将のことだけは、詳細を濁して。
大方話し終わった途端、その場に二人分のため息が響いた。