第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
それからの日々は、ただ淡々と過ぎていくだけ。
からっぽになった場所を埋めてくれるものなんて、何もない。
好きな映画を見ても、美味い飯を食っても、深まっていく秋の気配を体で感じても。
足りないものなんて明らかだ。
俺の世界に、梨央がどれだけ華を咲かせてくれていたのかを思い知る。
夜の街を歩いていると、街路樹から黄色く染まった葉がハラハラと落ちていく。
いずれ茶色く色を変え、一枚…また一枚と葉をなくし、遂にはそこに色づくものはなくなってしまう。
俺の心ん中と同じだ。
日を追う毎に、空虚さが増していく。
黙々と足を運んでいる中、胸元のスマホが告げる着信音。
ディスプレイに目をやり、一瞬出ようかどうか迷う。
生憎、楽しくお喋りできる気分じゃない。
でも、いつも忙しくてなかなか会えないあいつからの電話。
せめて声だけでも…なんてつもりで、通話に切り替えた。
「もしも…」
『おーっす!黒尾元気!?今さぁ、赤葦と汐里とでファミレスで飯食ってんだけど!お前も来ない?つか、仕事中?今よかったか?』
いやいや。
最後のひと言こそ、第一声で聞くことだろ。
相変わらずの木兎節に、内心少しだけ和む。
気分じゃないなんて思ってたけど、一人でいてもろくな思考にならねぇし。
久々に会える機会を逃すのももったいない。
木兎たちがいるファミレスの場所を確認して、俺は来た道をまた戻ることにした。