第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
頑張って呼吸しても、酸素が回っていない気がする。
とても冷静になんてなれない。
「大将に迫られたのか?キスだけ?それ以上は?本当は体も許した?あいつが触ったとこどこだよ!?」
気づけば梨央に詰め寄り、細い手首を力任せに掴んでいた。
「違っ…、どこも触られてなんてない!キスしか…」
「キス "しか" ?梨央にとってキスはその程度?俺は成瀬とキスしたって知って、すげぇ罪悪感だった!梨央を裏切ったって思った!お前は違うのかよ!!」
「違う…そんな意味じゃ…」
泣き出しそうな顔で俺を見る梨央は、酷く怯えた顔をしていて…
そこで、我に返る。
俺……何してんだ……。
この顔、見たことがある。
数か月前、元カレに傷つけられて泣いていた梨央。
あの頃の梨央と、今目の前にいる梨央。
全く同じ顔じゃねぇか……。
今の俺は嫉妬に犯されている。
梨央のことが好きで仕方なくて…
腕の中で締め付けてる。
力加減のわからないまま抱き締めて、梨央が「痛い」って言ってるのにも気づいてやれない。
俺は、あの元カレから梨央を救い出したつもりでいた。
でも……
同じ顔させてるじゃねぇか……。
「ごめん…」
きっと、一緒にいたらもっと傷つける。
「ちょっと頭冷やすわ…。俺たち、距離置こう…」
「てっちゃ……ごめ…なさい…」
「違うから。これはもう、俺自身の問題…」
梨央が何より大切なのに。
俺が守ってやるって、そう決めたはずなのに。
俺自身が傷つけて、追い詰めて、泣かせて…。
こんな自分、もう、うんざりだ……。