第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
*黒尾side*
泊まりでの出張を終え、東京に帰ってきたタイミングで、梨央から連絡があった。
会ってきちんと話したい、と。
もちろん俺もそのつもりだったから、すぐに返事を返した。
今夜、梨央の部屋へ。
他の女にキスしたことを覚えていないなんて…
俺に愛想を尽かしているかもしれない。
成瀬と同じ部屋で、朝まで過ごしたっていう事実もそうだ。
体の関係を疑われても仕方のないことをした。
この部屋を出る時の俺は、一体どんな気持ちでいるのだろう。
チャイムを鳴らして数秒。
扉を開けた梨央に、笑顔はなかった。
俺ももちろん、神妙な顔でいることしかできない。
通されたのは、見慣れたリビング。
最後に会った時は、ここで結婚を仄めかすような言葉を交わしたのに。
そのやり取りは、夢のように消えてしまうかもしれない。
もしかしたら、今日、別れの言葉に刷り変わってしまうかもしれない。
「コーヒー、飲む?」
そう聞いてくれたけど、梨央の気持ちが気掛かりで、何も喉を通らない気がした。
「いや…俺はいい」
「そう…」
梨央も自分の分を用意することなく、俺の目の前に座った。
静寂が包み、緊張を高まらせる。
でもまず、改めてちゃんと言わねぇと…。
「梨央。本当にごめん。軽率なことしたと思ってるし、梨央に信用してもらえなくても仕方がない。でも俺は、本当に梨央だけが好きだから。成瀬には恋愛感情なんて少しもないから。それだけは…信じて欲しい」
俺を見ることなく俯いた梨央は、黙ったまま。
俺はただ無言で、その様子を見守る。
微かに開いた、梨央の唇。
「うん…、それは…もういいの」
「え…?」
「てっちゃんは悪くないもん」
言葉と本心が違うのなんて丸わかりで…
つい、前のめりになる。