第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
優くん…やめて…
色んなことに自信をなくしてしまった私は…
もう…寄り掛かることしかできなくなる。
「優くん…ひとつ、お願い聞いて?」
「何?」
「今日ね…誕生日なの…」
「え?」
「こんな悲しい誕生日初めてだから…せめて優くんに、おめでとうって、言って欲しい」
少しだけ腕の力が緩くなる。
眉を下げて困った顔をした優くんは、呆れたように呟いた。
「何でもっと早く言わないの」
「だって…」
「誕生日って…マジかよ…。俺、雑炊作っただけだし…」
「……嬉しかったよ、すごく…」
額と額がコツンとぶつかる。
髪を撫でいく大きな手が優しい。
その心地良さに、自然と落ちる瞼。
「誕生日おめでとう。好きだよ…梨央さん」
柔らかくて綺麗な声が、耳元から心へ届く。
ありがとう…
そう、言葉にしようとすると。
唇に温かいものが触れた。
「…、すぐ…っ」
彼の名を呼ぼうとしてもそれは叶わず、何度も重なる唇に私の声は飲み込まれてしまう。
ゆったりとした、すごく優しいキス。
まるで、唇から優くんの気持ちが伝わってくるみたい。
てっちゃんから気持ちは離れられないまま。
優くんに心を預けることも出来ないくせに。
私は今ただ、流されてる。
何て卑怯なんだろう。
「もう、黒尾には返したくない」
「やっぱり、だめ…待っ…」
短く言葉を交わした途端、今度は舌を掬われる。
私の体温のせい?
優くんの体も火照ってるの?
熱が混ざり合って、唇も舌も蕩けてしまいそう。
ぼんやりする思考のままただ身を任せていると、絶え間ないキスの途中、ぴちゃっ、と厭らしい音が鳴る。
そこでようやく我に返り、優くんの胸元を押した。
「……優くん…やめ、て…」
「………」
唇への触れ方も、舌の絡め方も、キスの合間に体に触れる指の感触も。
てっちゃんとは全部違う。
塗り替えられるのが怖くて、優くんの顔を見られないまま俯いた。
胸に手を当てて呼吸を整えていると…
「すいません……」
申し訳なさそうに小さく呟いた優くんは、私の体から手を離し少し距離をとる。