第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「二人が本当に一線を越えていないのか」
それまで黙って聞いていた優くんが、静かな声で言葉を口にした。
視線をゆっくり上げて…
感情の読めない涼やかな瞳で、私を見つめる。
「そこを信じられるかどうか、ってことですか?」
「……」
「もしかして、信じきれない自分を責めてます?」
「……うん」
自分の黒い感情が、とても嫌だ。
こんな醜い自分が嫌だ。
てっちゃんのこと、好きで大好きで仕方がないのに、本当に体の関係はなかったのかと疑ってしまう。
キスだってそう。
ただのキス、たかがキスだと思おうとするけれど、やっぱり無理で…。
もう、嫌悪感でいっぱい。
二人のそんな姿を想像すると、嫌で嫌で、堪らない。
それだけでは留まらず、成瀬さんへは憎らしさすら覚える。
こんな自分がいること、初めて知った。
「優くんの言うとおり。信じたいのに、心のどこかで疑っちゃう自分が嫌。でも…もし本当にてっちゃんが浮気したんだとしたら……」
「…?」
「それはきっと、私じゃ満足できなかったからだよね…。私じゃ足りないものを、成瀬さんに求めたってこと…だよね…?」
「梨央さ…」
「ねぇ、優くん……私は足りないものでいっぱいかもしれないけど。それでも…私だけを愛して欲しいって思うのは、おかしなこと?…違うよね?」
込み上げてくるものを必死で飲み込もうとした時、体の自由を奪われた。
一瞬息が止まりそうになる。
でも、抱き締められているこの感覚に大きく安堵してしまい…
私は凭れかかるように優くんに体を預けた。
「梨央さん…そんな気持ちになってまで黒尾がいい?」
「……」
「俺なら、梨央さんにそんなこと言わせない。梨央さんに満足できないなんてこと、絶対にない。絶対、梨央さんだけを愛してあげるよ」
「優くん… "絶対" はないって言った…」
「そうだね。でも、梨央さんに対してはそう思える。俺の気持ちは、絶対に梨央さんから離れたりしないよ」