第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
何だか惨めて悲しくて、泣きそうになる。
「もう帰りましょう。送るから」
「大丈夫…」
「じゃないですよね?そんなフラフラで。まず着替えて。明日の仕込み、兄貴に頼んでくるから」
手を引かれ、更衣室に放り込まれる。
のそのそ着替えているうちに気づいたけど、何だか体の節々が痛い。
本当に熱があるんだ…。
そのあとは、優くんにされるがままだった。
タクシーで家まで帰り、足元の覚束ない私を支えて部屋まで付いてきてくれる。
それからベッドに押し込められ、ただ寝てろと言われた。
部屋を出た優くんはスポーツドリンクやゼリーをコンビニで買ってきてくれて…
何かとんでもなくお世話してもらってる。
「ありがとう、優くん。ごめんね、迷惑かけて…」
おでこに冷却シートを貼ってもらいながら様子を伺うと、優しい瞳と目が合った。
「そんなこと思ってませんから。あ、さっき冷蔵庫開けた時見えちゃったんですけど」
「何?変なもの入ってた?」
「いえ、野菜揃ってるなって。雑炊でも作りましょうか?今は無理でも明日食えばいいし」
そこまでしてもらうのは悪い…って、いつもならそう思うんだけど。
弱ってるからかな…。
甘えてしまいたくなった。
「ありがとう…じゃあ、お願いしてもいい?」
「はい、作ってきます」
「優くん」
「何?」
「卵入れて欲しいな…。あと、ネギはいらない」
「わかりました」
小さく笑って、優くんは寝室を出ていってしまった。
急に静けさが訪れた部屋の中で、ため息をつく。
勝手に頭に浮かぶ、てっちゃんのこと。
考えたくない。
余計に頭が痛くなる。
寝返りを打ち、ギュッと目を瞑った。
キッチンから、食材を切る音や鍋がぶつかる音がする。
今、一人じゃないことに、ホッとしてる。