第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
あの夜の電話以来、連絡はない。
もちろん、私からもしていない。
今離れているのは、距離だけじゃない。
心も離れてしまっている。
今日が、こんなに悲しい日になるなんて―――。
「梨央さん?」
閉店後片付けをしていると、優くんに顔を覗き込まれた。
「それ、さっきも洗ってましたよ」
シンクに重なる調理器具を指差して言う。
「そうだっけ…」
泡にまみれたそれを全て洗い流し、布巾の上に乗せる。
それから手を拭いて…。
隣から注がれる視線が気になる。
そこまでの動作を、優くんは黙ってずっと見ていた。
「優くんの言ったとおりだね」
「え?」
「 "絶対" なんて、恋愛にはないって」
私とてっちゃんの気持ちは、絶対に繋がってると思ってた。
絶対に離れないし、この先も絶対一緒に過ごしていくものだと疑わなかった。
頭が重い。
思考は悪いことばかり。
まともな考えなんて浮かばなくて、クラクラする。
「梨央さん」
優くんの冷たい手の平が、私の顔に触れた。
ぴたりと一度頬に当てがったそれは、そっと離れて今度は額へ。
「熱…ありますね」
「え…」
「今日一日ボーッとしてたから黒尾のことで落ちてるんだと思ったけど。顔が赤い」
そうか…
この気分の悪さは、体調が悪いことも重なってたんだ。
そんなことにも気づかなかった。
もう…
最悪の誕生日―――。
体の力が抜け落ちた。
膝を崩し、思わず調理台へしがみつく。
「ちょ…っ、梨央さん!大丈夫!?」
優くんに体を支えられるけど、上手く立っていられない。
目を瞑れば、尚更グルグルとめまいがするように感じる。