第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
*夢主side*
ランチを食べに来てくれた、てっちゃんと会社の人たち。
挨拶がてらデザートを、とテーブルに近づいた時だった。
一緒にいた女の人の口から、信じられない話が聞こえた。
てっちゃんに、キスされた…?
朝まで二人一緒に過ごした…?
いつ?どこで?
私と会えない時間に、その人と会ってたの?
何をどこまでしたの?
いつも私にしてくれるみたいに
その人の体にも、同じように触れたの…?
嘘…
嘘でしょ?
表情を作れないくらい、顔が強張っているのがわかる。
二人の顔を見たくなくて…
足早にその場を離れた。
追いかけてきたてっちゃんに手を掴まれるけど…
「キスは…?本当にしたの?」
最後の問い掛けに、答えてはくれなかった。
厨房の扉を閉めて、てっちゃんとの空間を遮断した。
どうしてだろう…
何故か涙は出ない。
でも、助かる。
まだ仕事中だから、涙なんて出たら困る。
「なんか修羅場ですか?」
静かに放たれた声。
顔を上げたところには、優くんが腕を組んで立っていた。
「他にお客さんいなくてよかったですね。丸聞こえ」
「……」
確かに…ここは職場。
個人的なことで揉めていい場所じゃない。
優くんの言うとおりだ。
「ごめんなさい。お店の中で揉めたりして…」
顔も見られないまま、小さく謝る。
「それもそうだけど…。まあ、こういうことがあっても不思議じゃないですよ。あいつモテるから。ムカつくことに」
……そうなんだ。
モテるんだろうな、とは思ってたけど…。
ああ…汐里ちゃんも、そんなこと言ってたっけ…。
でも、てっちゃんは私のこと本当に好きでいてくれてると思ってたし、その気持ちを疑ったことなんてなかった。
この先の二人のことを話したのって…
たった三日前だよ?
てっちゃんの気持ちはどこにあるの?
私じゃ物足りないって、思ってたの?
その夜、てっちゃんと話をした。
成瀬さんと一線は越えてないと言ったけど…
一晩一緒に過ごしたことは事実で。
キスをしたことも、恐らく本当のことで。
嫉妬と怒りと悲しさで、胸が張り裂けそうだった。