第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
一回、二回、三回……。
繰り返される、無機質なコール音。
予定どおり、夕方の便で北海道へやってきた俺たち。
明日は朝イチで営業先との打ち合わせが入っているために、こうして前日に現地入りしたわけだけど…。
この日程を恨まずにはいられない。
ちゃんと梨央の顔を見て話したい。
俺の顔を見て、話を聞いて欲しい。
こんなに大事な話を、機械越しにしなくちゃならないなんて。
コール音は四回目。
出てくれないのか…?梨央……。
五回目に差し掛かろうとしたその時。
プツッとそれは途絶えた。
向こう側からは、聞き慣れた声。
『……はい』
それはとても小さな声だった。
「梨央…。今、いいか?」
『うん…』
ゆっくりとひとつ、呼吸して…
言葉を選びつつ、顔も見えない梨央に話し始める。
「あいつ…成瀬っていうんだけど。仕事の同僚で」
『…うん』
「前に、仕事で軽井沢行っただろ?あの時、実は成瀬と二人だったんだ」
梨央からの返事はない。
でも、早くこの先を聞いて欲しくて、言葉を続ける。
「あの日すげぇ大雨でさ。雷も鳴ってて」
『……』
「あいつ、雷苦手らしいんだよ。雷の日に、兄貴に物置に閉じ込められたとかで…トラウマなんだって」
あれ……
「部屋で一人でいるのが怖いって言われて」
何だ、これ……
「落ち着くまでそばにいて欲しいって、頼まれてさ…」
嘘なんかじゃねぇのに……
「それで成瀬の部屋に行ったんだけど、疲れてたからうっかり寝ちまって…。気づいたら朝になってた…」
何かこれ……ただの言い逃れに聞こえねぇか……?
沈黙が走る。
顔が見えない分、とても長く感じる。
表情も見えない、声も届かない。
梨央が何を思っているのか、全く読めない。
『…それで?』
短く響いた声は、明らかにいつもの梨央とは違う。
思わず息が詰まるが、俺は喉の奥から無理矢理声を絞り出した。
「成瀬と…寝てはいない。これは本当だ。でも、昼間あいつが言ったみたいに、キス…は、」
『したの?』
気持ちが急いているのか、梨央の口調が僅かに早くなった。