第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
心臓が嫌な音を立てた。
中学ってことは…家庭のゴタゴタで、梨央が転校にまで追い込まれた場所。
嫌がらせや、いじめのようなこともされたって言ってたっけ…。
「あ、でも向こうは私のこと知らないはず。兄がね、同じクラスだったのよ」
こいつも知ってるんだろうか。
梨央の家の事情は学校でも噂になったらしいし、兄貴づてに聞いてる可能性も十分にある。
でもまぁ…知ってるからって、何なんだって話だけども。
「へー!世間は狭いもんだなぁ」
妙に感心した様子の浅井さんは、食事を平らげた皿にスプーンを置くと、水を飲み干した。
その時、スマホの着信音が鳴り響く。
「あ、俺だわ。はい、もしもし…、え?あー…すいません、わかりました。すぐ戻るんで」
手早くやり取りしてスマホをスーツのポケットヘしまうと、そそくさと立ち上がる。
「悪い、書類に不備があったみたいでさ。先に戻るわ」
じゃあ俺たちも、と思ったけど、成瀬がまだ食ってるし。
浅井さんは伝票を持って、さっさと会計へ向かってしまう。
図らずも俺と成瀬は二人きりになってしまった。
少しの沈黙の後、向かいに座る成瀬が口を開く。
「黒尾くん、何で私のこと避けるの?」
「…え?」
「あの日からずっとじゃない。誘いにも乗ってくれないし」
「そりゃだって、俺彼女いるし…」
「期待させるようなこと、したクセに?」
ムスッとした顔をしながら、俺を睨む成瀬。
期待…?
ワケがわからず、ただ言葉の続きを待つ。
「あの日…私のワガママを受け入れてくれて、触れてくれて、一晩中一緒にいてくれて…。期待するなって言う方がおかしいでしょ?」
「おい、待てって。言っとくけど、あれは深い意味なんてねぇから」
「深い意味なく女と朝まで過ごすの?」
「おかしな言い方するな。大体俺たちは何も…」
あの夜。
俺たちの間には何もなかった。
そう言いたかったのに、成瀬の口から出てきた台詞に息を飲んだ。
「キスしてきたのは黒尾くんでしょ?」