第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
俺たちのやり取りを眺めていた成瀬は、また薄く笑む。
「私も見てみたいな。黒尾くんの彼女」
興味本位なのか、浅井さんと一緒になってからかおうとでも思ってんのか。
今の言葉の真意はわからなかったが、俺たち三人は揃ってオフィスビルから外へと歩き出した。
秋めいた風で木々の葉が揺れる遊歩道を進み、路地を入った先。
赤い屋根と、レンガ造りの壁が見えてくる。
ここを訪れるのは、もっぱら夜。
昼間に来ることはめったにない。
店内に入ってみると混雑の時間帯は過ぎているようで、席はほどほどに空いていた。
「黒尾さん。いらっしゃいませ」
「よお、紗菜ちゃん」
「お昼に来てくれるなんて珍しいですね。三名様ですか?」
「うん」
「ご案内します」
店にはしょっちゅう出入りしてるから、バイトの子とも顔馴染みだ。
紗菜ちゃんが案内してくれた席に腰を下ろし、ランチメニューの中からオムライスを注文した。
「飯済んだら、もう空港向かうか」
「そうっすね。ギリギリじゃマズイし」
「浅井さん、お土産お願いしますね。カニとウニとイクラ!」
「んなもん、自分で行った時に買えよ!」
テーブルに乗った三人分のランチをそれぞれ口にしながら、いつもどおり談笑する。
正直、成瀬の相手はほとんど浅井さんがしてくれていて助かる。
目の前のオムライスが半分程に減った時。
ガラス張りの厨房の中に、梨央の姿を見つけた。
「あ、成瀬。あの子だよ。黒尾の彼女」
「え…?」
成瀬も俺たちと同じ場所へ目を向ける。
「パティシエなんだって。デザートもウマいんだよ」
「……」
黙ったままの成瀬。
何度か瞬きをして、ふと考えるように顔を伏せた。
そしてまた、厨房へ視線を戻す。
「どこでだろう…」
「え?」
「絶対に見たことある気がするんだけど…」
「何?知り合い?」
浅井さんに尋ねられながらも、まだ首を捻っている。
「ねぇ、黒尾くん。彼女の名前何ていうの?」
「え?武田梨央だけど」
「武田…梨央……。あ…」
思い出したように顔を上げ、ジッと梨央に目をやる。
それから納得したように一人頷いた。
「そうだ…中学が一緒だったんだ…」