第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「あ、そうだ。これ」
鞄を開くと覗く、シャンパンゴールドの小さなショップバッグ。
仕事で使う書類やタブレットに混じって妙に浮いたそれを取り出し、梨央の目の前に置く。
「何…?」
「開けてみて」
驚いた顔で俺を見たあと、袋の中からリボンが施された箱を手にした。
ゆったりとした動作解かれていく、ワインレッドのリボン。
「わ、ピアス!」
「うん。誕生日おめでとう」
五日後は、梨央の誕生日。
付き合って初めての誕生日なのに、泊まりで出張が入っていてその日は祝うことができない。
誕生日プレゼントを贈りたいって言っても「何もいらない」と笑顔で断られ…
俺の独断で買ってくるという強硬手段に出た。
「何かプレゼントしたかったの。勝手に選んでごめんな」
「ううん、そんな!すごく素敵…ありがとう…」
よかった…
その笑顔が見たかった。
「着けてみるね!」
手慣れた様子でピアスホールにそれを装着する。
耳元でキラキラと輝くシンプルな一粒ダイヤ。
思ったとおり。
梨央によく似合ってる。
普段着ている服にも合うと思うし、何より自分がプレゼントした物を身に付けてくれるってのは、男として嬉しいもんなんだ。
「今回はピアスだけど…」
手鏡を覗く梨央のそばから、華奢な左手をとる。
「ん?」
「そのうち、"とっておきのダイヤ" プレゼントするから」
「……」
「ココに」
握った手はそのままに、スルスルと薬指を撫でる。
目を丸くした梨央は、その顔を照れたような笑みに変えた。
二人一緒の時間を。
沢山お互いの心と向き合う時間を。
そういう時間を積み重ねて、その先に行けたら。
俺が梨央しかいないと思っているように、梨央にもそんな風に思ってもらえたら。
その時は、この気持ち、ちゃんと伝えるからな。
いつの間にかお互い箸を置き、かしこまり向かい合っていた。
自分でも少しぎこちないのがわかる。
先が思いやられるぜ…。
プロポーズがとんでもなくハードルの高いもんに思えてきた。
世の男たちはスゲェな…。