第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「梨央さん、頑張ったんでしょうね」
「え?」
「俺は兄貴と姉ちゃんがいたから、捌け口があったんですよね。母親に言えないこと…まあ主に金銭的なこととか、相談に乗ってもらったり」
確かに、余計なお金は使わせちゃいけないって…それは常に思ってた。
「でも梨央さんは、お母さんに言えないこと、一人で悩んで考えてきたんでしょ、ずっと」
「……」
「きっと俺たちなんかより、いっぱい色んなこと抱えてきたんだろうなって…」
鼻の奥が痛くなるのを感じた。
もう過ぎ去ったことなのに。
今日はお父さんのことを思い出したり、昔の自分に思いを馳せていたからだろうか。
あの頃の私は、誰かにそう言って欲しかった。
本当に頑張ってるのはお母さんだってわかってたけど、でも…
弱音を吐きたい時だって、私にもあったんだよ…。
「…ごめん」
こんなとこ見せたくないのに、勝手に涙が込み上げてくる。
優くんに背を向け、目尻に滲んだ涙を流さないように堪えた。
指で目元を拭って、鼻を啜る。
すると、頭を撫でていく温かい感触。
優くんの手だ…。
「よしよし」
「……」
「よく頑張りました」
まるで子どもをあやすみたいに、何度も頭を撫でられる。
「優くん、お父さんみたい…」
宥めてくれる手は、とても優しい。
なんだか、懐かしい感じ…。
ふいにその手が止まり、優くんは私が向きを変えた方へと回り込んでくる。
やだ…こんな顔見られたくないのに…。
俯いたままでいると、そのままベンチに腰を下ろしたのがわかった。
「 "お父さん" なら、こんな宥め方してもいいですよね」
「え…」
優くんは泣き顔を見ようとはしない。
その代わり、私の体はあっという間に優くんの腕の中へ。
首元に頭を押し付けられて、今度は背中を優しく撫でられる。
「すぐ…る、くん…」
少し身を捩っても、頭は押さえつけられたまま。
「大丈夫だから…離して」
「離していいんですか?泣き顔見ちゃいますよ?」
「…それは、だめ」
「じゃあどうするんです?どっちか選んでもらわないと」
やだ…
こんな意地悪な言い方、てっちゃんみたいだよ。