第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「……今日のお礼にランチに誘ったとしても、断られる気がしたんです。でも梨央さんの性格上、弁当作って来られたらそれを無下はできないだろうなって」
「……」
「すいません」
もう…。
いつもは肉食って感じでグイグイ来るのに。
急にしおらしくならないでよ…。
「…そういう魂胆だったんだ。イヤラシイね、優くん」
「……否定はしません」
小さくため息をつきながら、ポツリ呟く。
私を怒らせたと思ってるのかな?
「うそうそ。冗談だよ?ねぇ、どうして優くんは料理人になろうと思ったの?」
伏せていた瞳と目が合う。
それから、ホッとしたように微かに笑った。
「昔から料理するのが当たり前だったんです」
「え?」
「俺んち親が離婚してて。母は夜遅くまで働きに出てたんで、少しでも家事の負担を減らす為に、兄弟三人で家のことは回してたんです」
「……そうだったんだ」
「出来る時に出来る人間が出来ることをする、ってスタンスで。家事は母親がするものって感覚はなかったんですよね、うちは。で、料理もその延長で。突き詰めてったら面白かったんで、この道選びました」
「そっか…」
ちょっと驚いた。
そりゃ、今時離婚なんて珍しいことじゃないけど。
でも、こんな身近にいる人と境遇が似てるなんて、思わなかったから。
「実は、私も同じ。中学の時親が離婚して。ずっとお母さんと二人でやってきたの」
「…そうですか」
「確かに、親に家事を頼るってことはしなかったな…。でも初めは失敗ばっかりで」
「もしかして、電子レンジで卵爆発させたことあります?」
「あるよ!え?優くんも!?」
「ないですね」
「…何それ…意地悪だなぁ」
「あ。洗濯機でティッシュペーパー洗っちゃったり?」
「あるある!優くんもある?」
「ないっす」
「……もういい」
お弁当からして、優くんの女子力の高さはわかった。
きっと、家事も器用にこなすタイプなんだろうな。
私がむくれてる横で、クスクス笑う声が聞こえる。
ジトッと睨んでみても、全く臆することはない。
それどころか、返ってきたのは優しい微笑。