第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「鉄朗くん」
氷をグラスに移してる後ろから、声を掛ける。
てっちゃんはこちらを振り返って、私を意外そうな顔で見下ろした。
「……何?名前、急に」
「だって、あなたは鉄朗くんでしょ?」
「そうでした」
「怒ってる?」
「ねぇよ。大丈夫」
何ともなさそうに笑うけれど、でも、いつもどおりではない気がする。
私がジッとその目を見ていると、気まずいのか、ふと視線を逸らした。
「梨央が悪いわけじゃねぇから。余裕のない自分に、呆れてるだけ」
「え?」
「デートってわけじゃねぇのにな」
「……」
てっちゃんの手からグラスを取ると、それを調理台へ置き、大きな体にギュッと抱き着いた。
「な…おいっ、梨央?誰か来るかもしんねぇぞ?」
「大丈夫」
「へ?」
「赤葦くんが、引き止めてくれると思う」
「…さすが。空気読める男」
腕の力を緩め、てっちゃんを見上げる。
爪先に力を入れて、唇を寄せていく。
ゆっくりと押し当てた私たちの唇は、アルコールのせいか少し熱かった。
「優くんには、頃合い見てやっぱり断るよ」
「…いい」
「え?」
「今回は、姪っ子ちゃんに免じてってことで。喜んでもらえそうなプレゼント、選んで来いよ」
「……うん」
きっとこれも、本心ではあると思う。
私がてっちゃんの立場でも、こう言う気がする。
「つか、あいつ俺にお伺い立てるとかヤラシイわ。反対したら、俺は器の小さい男です、っつってるようなもんだろ。ったくよぉ…」
今度はあからさまに不機嫌顔で唇を尖らせてる。
さっきの真意の読めない笑顔よりは、見ていて安心する。
どうすればいいのかが、わかるから。
「ねぇ、てっちゃん。好きだよ」
「……」
「ずっとずっと、てっちゃんだけが好き。私の気持ちは、どこにもいかないからね」
力いっぱい私の体を締め付ける腕。
少し痛いけど、この力強さが嬉しい。
私を求めてくれてるって、実感できる。
「……なあ、もう一回、名前呼んで」
耳に触れた唇から、甘い囁きが届いた。